2023 年 105 巻 3 号 p. 96-102
本研究では,福島第一原発事故からおよそ10年が経過した福島県を対象に,木材,食材,空間利用の三つの視点から森林利用の現状と今後の課題を明らかにした。その結果,食材利用は未だ大きく停滞しているものの,木材利用と空間利用は県全体では回復の傾向がみられた。とくに空間利用の回復には施設運営者や行政による継続的な空間線量率のモニタリングと周知が利用回復に寄与していると考えられた。相双地域の現状は他地域と異なり,素材生産量回復の遅れには,地域特性のみならず,国有林材の生産縮小の影響が大きかった。今後の課題として,木材利用では山元立木価格の上昇と広葉樹材の需要拡大,食材利用では出荷制限の解除,空間利用では安全性の周知に向けた継続的なモニタリングの必要性が指摘できる。