本総説において, シカ類による樹木剥皮発生の特徴とシカ類が剥皮を行う要因について総合的に検討した。シカ類は剥皮をする際に樹種を選択しており, この選択性は森林の樹木構成に影響を与えていた。世界中の多くの研究報告においては, シカ類による剥皮は冬季の餌不足が原因であるとされていた。一方, いくつかの研究報告においては冬以外の季節に発生する剥皮について, 実験的な証明はないものの, ルーメン胃内環境の適正化を目的として樹皮を採食しているという可能性が示唆されていた。今後この点について明らかにしていくためには, 飼育シカ類を用いた実験研究および野生シカ類のルーメン胃内環境の詳細な調査が不可欠である。また, 「シカ類が反芻動物としての消化生理をもつ」という視点をもつことは, シカ類の採食生態を研究していく上で新たな発想を与えてくれるであろう。