抄録
2002年3月∼2010年3月の8年間, 松江市城山公園でサクラ類ならたけもどき病の発生経過を調査した。調査期間中に調査木113本の6割に感染を認め, 4割が枯死する激害が生じた。本病が激化した要因の一つとして, 根元周囲に施用された木材チップの影響が考えられた。感染・枯死木から分離した菌株のジェネットを体細胞不和合性に基づき識別し, 公園内における本病菌のジェネット分布を推定した。分離70菌株は10ジェネットに分けられた。9ジェネットはジェネットあたりの感染・枯死木が1∼11本であったが, 1ジェネットは27本で, うち25本が約50×75 mにわたる広範囲に分布した。枯死木近くに補植された幼木のうち11本は植栽後2∼4年の短期間で衰弱・枯死し, 近くの枯死木と同じジェネットの菌株が分離された。これらの結果から, 本病菌は胞子によって伝播すると同時に, 栄養繁殖で伝播することが示唆された。また, 270 m離れた木から飛地的に同ージェネットの菌株が分離され, 調査木間で伝染源が持ち運ばれたことが示唆された。