抄録
ハゲ山が森林に長い時間をかけて再生する過程で, 森林からの蒸発散量がどのように変化したのか, また, その変化をもたらした主要因は何かを知ることを目的として, 東京大学演習林生態水文学研究所穴の宮流域を対象として, 森林再生の初期段階の 10年間 (前期) と, その後 60年が経過して森林再生がある程度進んだ段階の 10年間 (後期) の間で平均年損失量を水収支法により求め, 比較した。後期の 10年平均年損失量は, 前期に比べて 89 mm多かった。短期水収支法を基礎とした新しい推定法を用いて, 年蒸発散量を求めたところ, 後期の平均年蒸発散量は, 前期の平均年蒸発散量に比べて 80 mm多かった。年蒸発散量と年平均気温, 年降水量, 年降水日数との関係を調べたところ, 後期に年蒸発散量が増加した主たる原因は, 森林再生による樹冠遮断量の増加などによる年蒸発散量の増加であることが示唆された。