日本森林学会誌
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95 巻, 2 号
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論文
  • 江原 秀宗, 石井 弘明, 前藤 薫
    2013 年95 巻2 号 p. 95-100
    発行日: 2013/04/01
    公開日: 2013/06/12
    ジャーナル フリー
    列状間伐を行った兵庫県の47年生スギ人工林において下層植生が節足動物相に与える影響を明らかにするため, 間伐林分および隣接する対照林分において下刈りを行い, アリ群集構造の変化を調査した。アリ類の種数に林分間の差はなかったが, 種構成は異なっており, 間伐林分は広域生息種によって, 対照林分は森林性種によって特徴付けられた。アリ群集構造に対する下刈りの効果は林分間で異なっており, 環境適応性が高く, 撹乱に強い種によって特徴付けられる間伐林分の群集構造は, 下刈りの影響を受けにくいが, 森林環境に特化した種によって特徴付けられる対照林分の群集構造は, 撹乱に対して脆弱であることが示唆された。下刈りがアリ群集構造に与える影響は間伐に比べて小さかったものの, 強度間伐を実施した人工林において林冠閉鎖後も多様な下層植生構造を維持し, 幅広い生育環境を確保すれば, 広域生息種と森林性種の共存が可能となり, アリ類の種多様性が増大すると考えられる。
  • —種の多様性は損なわれるか—
    阿部 真, 倉本 惠生, 飯田 滋生, 佐々木 尚三, 石橋 聰, 高橋 正義, 酒井 佳美, 鷹尾 元, 山口 岳広, 正木 隆
    2013 年95 巻2 号 p. 101-108
    発行日: 2013/04/01
    公開日: 2013/06/12
    ジャーナル フリー
    電子付録
    施業が森林生態系に及ぼす影響について, 林床植生の変化は指標となり得る。北海道中央部の針広混交林において, 約1 haの択伐区と対照の保存区とを伐採から5年間観察し, 林床に生育する維管束植物の種多様性の推移, およびその林内分布に影響する要因を調べた。択伐区では保存区と比較し, クマイザサの被覆が増大した一方で, 種数およびShannon関数に差異はみられなかった。主な40種の分布について, 択伐の有無, 作業による地表撹乱, 微地形, 光環境, 植生被覆, および過年度の分布の各要因をGLMの説明変量とし, AICを基準に最も説明力の高いモデルを選択した。分布の重要な要因として, 多くの種について過年度の有無, 次いで光環境と植生被覆が検出された。択伐の有無, 地表撹乱および微地形は, 直接的な要因としては検出されなかった。以上のように, 択伐によるササの繁茂が定量的に示され, また, いくつかの種に影響があることが示された。しかし, 林分全体の種多様性に大きな影響は認められなかった。択伐では光や地表面の撹乱が局所的であること, また林床植物は多年生が多いことにより, 伐採から短期間では影響が現れにくいと考えられる。
  • 五名 美江, 蔵治 光一郎
    2013 年95 巻2 号 p. 109-116
    発行日: 2013/04/01
    公開日: 2013/06/12
    ジャーナル フリー
    ハゲ山が森林に長い時間をかけて再生する過程で, 森林からの蒸発散量がどのように変化したのか, また, その変化をもたらした主要因は何かを知ることを目的として, 東京大学演習林生態水文学研究所穴の宮流域を対象として, 森林再生の初期段階の 10年間 (前期) と, その後 60年が経過して森林再生がある程度進んだ段階の 10年間 (後期) の間で平均年損失量を水収支法により求め, 比較した。後期の 10年平均年損失量は, 前期に比べて 89 mm多かった。短期水収支法を基礎とした新しい推定法を用いて, 年蒸発散量を求めたところ, 後期の平均年蒸発散量は, 前期の平均年蒸発散量に比べて 80 mm多かった。年蒸発散量と年平均気温, 年降水量, 年降水日数との関係を調べたところ, 後期に年蒸発散量が増加した主たる原因は, 森林再生による樹冠遮断量の増加などによる年蒸発散量の増加であることが示唆された。
  • —学習指導要領をもとにした分析—
    井上 真理子, 大石 康彦
    2013 年95 巻2 号 p. 117-125
    発行日: 2013/04/01
    公開日: 2013/06/12
    ジャーナル フリー
    戦後における専門高校の森林・林業教育について, 関連学科の状況と, 学習指導要領をもとに教育目標, 内容の変遷を分析し, 今後の教育のあり方と課題を考察した。その結果, 専門高校での森林・林業教育は, 1970年代までは林業技術者養成のための教育目標, 内容が設定されてきたが, その後関連分野の就職が減少する中で, 学科数が減少し, 学科名が多様化しており, 専門教育の目標は進学を視野に入れた将来の職業人の育成に変わっていた。教育内容は, 戦後一貫して育林など10項目が教えられているが, 林業の専門的な技術の内容は削減され, 新たに森林の生態や環境保全などが加わっていた。現在, 森林・林業関連学科は38校 (関連科目開設校を含め67校), 卒業生約千人/年の中で, 関連分野への進路を得ているのは2割程度であった。今後の森林・林業教育のあり方には, 森林・林業を切り口とした一般の職業人としての教養教育と,専門分野の人材育成との二つの役割が考えられ, その実施のための課題には, 教育内容の精査やプログラムの体系化, 専門性を持った森林・林業教育を行える教員の養成や確保, 大学など森林・林業分野の連携が挙げられた。
  • 太田 徹志, 高比良 聡, 中間 康介, 吉田 茂二郎, 溝上 展也
    2013 年95 巻2 号 p. 126-133
    発行日: 2013/04/01
    公開日: 2013/06/12
    ジャーナル フリー
    低密度植栽による植栽経費の削減効果と主伐時の収入の減少に着目し, 植栽から主伐までの収支から低密度植栽の有効性を検討することを目的とした。MSPATHアルゴリズムを用いた間伐戦略最適化モデルから, 植栽密度ごとに林業経営体の収益の現在価値を最大化する間伐計画と主伐期 (以下, 最適経営戦略) を求めた。最適経営戦略時の正味現在価値 (NPV) を植栽密度間で比較することで, 低密度植栽の有効性について考察した。同時に, 補助金の存在が最適経営戦略に与える影響も検証した。植栽本数1,000本/haから500本ごとに3,000本/haまで検討した結果, 補助金の有無にかかわらず, 植栽本数の減少に伴いNPVは上昇した。このことから, 本研究の仮定した条件下において, 低密度植栽は現在の植栽密度に比べて収益を増加させる可能性があると結論づけた。
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