日本森林学会誌
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論文
北海道江差町の厚沢部川河口域における飛砂害史
真坂 一彦三上 千代蔵
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2017 年 99 巻 2 号 p. 61-69

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抄録

北海道江差町における柳崎集落の飛砂害史について整理し,既往の郷土史について考証した。現在見られる砂坂海岸林は,かつて柳崎集落があった場所に造成されたものだが,柳崎は明治初期の海岸林の濫伐に端を発する飛砂害で厚沢部川対岸に集団移転したとされる。しかし,幕末の探検家松浦武四郎が記録した光景は樹木のない海浜草地であった。柳崎の海浜部である浜中は古くから馬の放牧地として使われ,多数の馬が飼育されていた。近隣では過放牧による草地の荒廃事例が複数あった。これらの事実から,飛砂の発生は海岸林の濫伐ではなく,過放牧が原因と推察された。飛砂は冬季に学童の通学を脅かし,また春は水田に堆積した砂の除去に子供たちが駆り出された。もともと冬季に河口閉塞が生じやすい厚沢部川河口は,氾濫防止のため江戸時代から水戸切りと呼ばれる新河口(水戸口)の開削が行われていたが,おそらく海岸林が成林するとともに飛砂が鎮まったことで,水戸口の開削頻度が減った。水戸切り,水戸口はどの史料にもなく,高齢者からの聞き取り調査で明らかになった。

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© 2017 一般社団法人 日本森林学会
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