2017 年 99 巻 5 号 p. 187-194
国土の約7割を森林が占める我が国において木質バイオマスの賦存量は大きいが,そのエネルギー利用は進んでいない。その理由として,木質バイオマスの生産コストが高いことやエネルギー利用の需給システムが未確立であることがあげられる。本研究では,人工林の地拵えから伐出までの一連のプロセスを対象として,高コストとされる木質バイオマスの生産プロセスに焦点を当て,地域別,傾斜度別,林業機械別にプロセスごとの詳細な積み上げ法により経済性評価を行った。その結果,木質バイオマスの生産コストに単位面積当たりの材積が大きな影響を及ぼすことを定量的に示した。また生産コストが低いとされるスウェーデンと比較したコスト構造の現状分析と,都道府県別に傾斜度がコストに及ぼす影響の感度解析を行った。それらの結果を基に,生産コスト低減のための技術的課題の抽出と,木質バイオマスの利用拡大を実現するための種々の条件と対策(技術シナリオ)を検討した。技術シナリオに基づく試算例として,木質バイオマスの生産コストは既存の対策の組み合わせにより,緩斜面については現状の約3分の1である約4,000円/m3 まで低減できる可能性を示した。