2019 年 31 巻 2 号 p. 147-152
医療従事者は,患者や家族が表出する種々の感情を受け止め,かつ適切に対処することが求められる。その結果,医療従事者にはネガティブな心理的反応が様々な形で生じ得るが,これらはバーンアウト・共感疲労・二次的外傷性ストレスなどの概念で記述されてきた。従来,このようなネガティブな反応を防ぐ医療従事者の姿勢として,detached concern(認知的に共感しながらも患者と一定の感情的距離を保つこと)が推奨されてきた。一方,医療従事者が感情的にも高い共感性を示すことにより,患者医療者関係が改善し,双方の満足度が高まるだけでなく,良好な治療結果をもたらすとの報告が蓄積されている。これらの知見を受け,医療従事者の共感性を高めるための教育的介入が近年模索されているが,ネガティブな心理的反応への対策も忘れてはならない。本稿ではヒトの共感特性に関する先行研究を概観し,現状の課題や今後のあり方について考察する。