総合病院精神医学
Online ISSN : 2186-4810
Print ISSN : 0915-5872
ISSN-L : 0915-5872
最新号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
特集:総合病院精神科とトラウマ
総説
  • 西 大輔
    原稿種別: 総説
    2019 年 31 巻 2 号 p. 138-146
    発行日: 2019/04/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

    本稿では,総合病院でも経験され得るトラウマティック・ストレスについて,事故や疾患に直接関連して患者が経験するもの,子ども期の逆境体験のように通常は気づかれにくいが患者の現在の疾患・症状に関連し得るもの,そして医療従事者が通常医療および災害時において経験し得るものに分けて,これまでのエビデンスやその対応についてまとめた。 トラウマティック・ストレスは総合病院においても決して珍しいものではなく,PTSDの専門的な治療を実施できない場合でも,適切な心理教育やトラウマインフォームドケアを通常医療のなかに取り込むことで,トラウマティック・ストレスを抱えた人の回復の一助となり得る。そのような取り組みを行うためにも,日常臨床においてトラウマティック・ストレスという視点を意識することが重要と考えられる。

総説
  • 長峯 正典, 佐野 信也, 重村 淳, 吉野 相英, 清水 邦夫
    原稿種別: 総説
    2019 年 31 巻 2 号 p. 147-152
    発行日: 2019/04/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

    医療従事者は,患者や家族が表出する種々の感情を受け止め,かつ適切に対処することが求められる。その結果,医療従事者にはネガティブな心理的反応が様々な形で生じ得るが,これらはバーンアウト・共感疲労・二次的外傷性ストレスなどの概念で記述されてきた。従来,このようなネガティブな反応を防ぐ医療従事者の姿勢として,detached concern(認知的に共感しながらも患者と一定の感情的距離を保つこと)が推奨されてきた。一方,医療従事者が感情的にも高い共感性を示すことにより,患者医療者関係が改善し,双方の満足度が高まるだけでなく,良好な治療結果をもたらすとの報告が蓄積されている。これらの知見を受け,医療従事者の共感性を高めるための教育的介入が近年模索されているが,ネガティブな心理的反応への対策も忘れてはならない。本稿ではヒトの共感特性に関する先行研究を概観し,現状の課題や今後のあり方について考察する。

総説
  • 布宮 伸
    原稿種別: 総説
    2019 年 31 巻 2 号 p. 153-159
    発行日: 2019/04/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

    集中治療を受け生存退院した患者には,身体的機能障害ばかりではなく,心的外傷後ストレス障害,抑うつ,強度の不安感などの精神疾患・精神症状や長期認知機能障害を発生する患者が高率に認められ,退院後の生活の質の低下を招いているという問題が表面化してきており,集中治療領域の新たな課題として注目されている。Post-intensive care syndrome(PICS,集中治療後症候群)と呼ばれるこれらの病態は,一般社会的にも一般医療界にもまだ認知度は低く,すでに海外ではその啓蒙が盛んに行われている。しかし本邦においては,PICSの認知度は未だ不十分と言わざるを得ず,実態調査すらほとんど行われていない。PICSに対する対応は,集中治療医と精神科専門医の密接な協力が必須であり,多くの精神科専門医にPICSの実態を知っていただくべく,概説を試みた。

総説
  • 堀 弘明
    原稿種別: 総説
    2019 年 31 巻 2 号 p. 160-173
    発行日: 2019/04/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

    心的外傷後ストレス障害(PTSD)は,再体験症状をはじめとする古典的な心理・行動症状によって特徴づけられる精神疾患である。一方,PTSDと免疫・炎症系変化の関連を示唆するエビデンスが蓄積されてきている。疫学研究では,本疾患の患者はメタボリック症候群や動脈硬化性心血管疾患,自己免疫疾患などの免疫系異常が関与する身体疾患の合併率が高いことが示されている。また,健常対照者と比較してPTSD患者では,血液中のinterleukin-1βやinterleukin-6,tumor necrosis factor-α,C-reactive proteinなどの炎症マーカーの濃度が高値を呈することが報告されている。さらに,炎症は単にPTSDに関連するというだけでなく,本疾患の病因・病態に重要な役割を果たす可能性も指摘されている。本総説では,初めにPTSDにおいて炎症が亢進していることを示した研究結果を紹介し,続いて本疾患と炎症系が関連するメカニズムを考察する。本研究分野の重要な臨床的意義として,炎症系を標的とした新規PTSD治療法の可能性についても取り上げる。

総説
  • 筒井 卓実, 飛鳥井 望
    原稿種別: 総説
    2019 年 31 巻 2 号 p. 174-183
    発行日: 2019/04/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

    近年,心疾患に関連した心的外傷後ストレス障害の研究が注目されている。特に急性冠症候群後に起こる心的外傷後ストレス障害を一群に分類した「ACS induced PTSD」に関する研究は,ACS induced PTSDの発症リスク因子,約12%とされる有病率,ACS induced PTSDがACS後の患者の心血管イベントを約2倍高める予後悪化因子であること,予後悪化のメカニズムや治療的介入の可能性を示している。しかし,本邦ではACS induced PTSDの症例報告はほとんどなされておらず,本邦においても適切な評価と介入を行うための臨床経験の蓄積・共有が求められる。本論文では,筆者の自験例や本邦で行った調査研究の内容に触れながら,ACS induced PTSDに関するこれまでの研究について紹介する。

一般投稿
原著
  • 井上 佳祐, 日野 耕介, 伊藤 翼, 松森 響子, 六本木 知秀, 野本 宗孝, 高橋 雄一, 平安 良雄
    原稿種別: 原著
    2019 年 31 巻 2 号 p. 193-198
    発行日: 2019/04/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

    近年,わが国の自殺者数は漸減傾向にあるが,全自殺者数の約4割が60歳以上で,今後さらなる高齢化が進むと予測されるわが国において,高齢者の自殺対策は重要な課題である。救命救急センターに搬送され入院となった自殺未遂者を,65歳以上の高齢者群(83名)と64歳以下の非高齢者群(586名)に分けて,各々の患者背景,自殺企図の特徴や転帰などについて比較を行った。高齢者は精神科医療を受けていない傾向にあり,プライマリケア医や地域の支援者が高齢者の自殺予防を行うことが重要である。精神科主診断は,高齢者群において,気分障害に次いで認知症が多かった。高齢者群は,身体的に重症化しやすく,また入院が長期化しやすいことがわかり,日常生活活動の低下につながるなどの悪循環を来しやすいことが示唆された。このような転帰になることを防ぐためにも,高齢者の自殺対策が引き続き進められることが重要である。

  • 小川 祐子, 小澤 美和, 鈴木 伸一
    原稿種別: 原著
    2019 年 31 巻 2 号 p. 184-192
    発行日: 2019/04/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,がんに罹患した母親が病状について子どもに伝えた内容,伝え方とその後の母親の心理的健康との関連を明らかにすることであった。がん診断時に18歳未満の子どもがいた女性がん患者31名(48.03±5.46歳)に質問紙調査を実施した。その結果,不安,抑うつ,PTSSとの関連はみられなかったが,より多くの内容を伝えた母親は,より高いPTGを経験していた。また,治療に伴う副作用を伝えた者は抑うつが低く,病名や治療方法を伝えた者はPTGが高かった。研究デザインやサンプルサイズの限界のため,本研究結果から子どもに病気を伝えることが直接的に母親の心理的健康に影響を与えるかについては言及できないが,今後は,本研究での限界点をふまえ,臨床現場での活用可能性が高まるよう,より大規模なサンプルを対象とした調査を実施することにより,子どもの発達年齢や母親の心理状況を考慮した検討が可能となるだろう。

症例
  • 平山 貴敏, 小川 祐子, 鈴木 伸一, 清水 研
    原稿種別: 症例
    2019 年 31 巻 2 号 p. 199-206
    発行日: 2019/04/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

    行動活性化療法は,うつ病のがん患者に対する有効性が示されている。しかし,抗うつ薬による治療に同意しないがん患者に対する有効なアプローチとしての可能性を示した報告はない。本症例報告は,患者本来の「自分らしさ」を大切にして日々を過ごす行動活性化療法が有効なアプローチであることを示すことが目的である。

    われわれは,抗うつ薬による治療に同意しないうつ病の乳がん患者に対し,計8セッションの行動活性化療法を行った。その結果,抗うつ薬を使用することなしに,Hamilton Rating Scale for Depression(HRSD)では介入前の中等症のうつ状態から介入後は寛解状態まで改善を認めた。さらにプログラム後に,患者は日々を主体的に過ごせるようになった。

    本症例から,行動活性化療法が①がん患者に特に良い適応があること,②がん患者のその後の人生を主体的に生きることにもつながる可能性があること,が考えられた。

  • 大山 覚照, 岡田 章, 早野 絵梨, 滝本 佳予, 岩本 千晶, 沈沢 欣恵, 谷向 仁
    原稿種別: 症例
    2019 年 31 巻 2 号 p. 207-215
    発行日: 2019/04/15
    公開日: 2024/03/28
    ジャーナル フリー

    [序言]パーキンソン病(PD)患者のせん妄治療において,抗精神病薬の代替薬が求められている。われわれは,ガバぺンチンにより,PD症状の悪化なく,せん妄が改善したPD症例を経験したので報告し,ガバペンチンが抗精神病薬の代替薬となる可能性を議論する。[症例1]82歳男性のPD患者。肺炎発症後,せん妄を呈した。ガバペンチン100mg眠前を開始すると,せん妄が速やかに改善。PD症状は悪化せず。[症例2]66歳女性のPD患者。小脳梗塞発症後,せん妄を呈した。 ガバペンチン100mg眠前を開始後,認知機能が改善し,さらに200mg眠前に増量後,幻視・妄想が消失。PD症状は悪化せず。[考察]これらの症例より,ガバペンチンはPD症状の悪化なく,抗精神病薬・ベンゾジアゼピン系薬剤とは異なる作用機序で,せん妄を改善させる可能性がある。[結語]ガバペンチンはPD患者のせん妄において,抗精神病薬の代替薬となる可能性がある。

feedback
Top