医療経済研究
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論文
日本の高血圧診療に家庭血圧測定を導入した場合の費用対効果分析
福永 英史大久保 孝義小林 慎田巻 佑一朗菊谷 昌浩中川 美和小原 拓目時 弘仁浅山 敬戸恒 和人橋本 潤一郎鈴木 一夫今井 潤
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2008 年 19 巻 3 号 p. 211-232

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抄録

目的:近年の医療費の高騰、財政難を背景に、限られた医療資源の有効活用が求められている。特に費やされる医療費中で大きな割合を占める高血圧性疾患について、費用対効果を考慮した治療の効率化は重要な課題である。家庭における自己測定血圧(家庭血圧)は、白衣高血圧を発見できるなど医療環境下で測定される随時血圧に比べ予後予測能に優れており、医療費の削減につながることが期待される。本研究は未治療随時血圧高血圧者に高血圧治療が行われると仮定した場合の、高血圧診療に家庭血圧測定を導入することによる医療費の削減額を試算することを目的とした。

方法:本研究では日本の40歳以上の男女6,759万人を対象と仮定し、費用対効果分析を行った。分析にはマルコフモデルを用い、データは家庭血圧を導入した高血圧・循環器疾患に関するコホー卜研究である大迫研究のデータおよび厚生労働省発表の統計資料等を使用した。分析期間は一生涯・10年間といった2通りについて検討した。

成績:費用分析の結果、一生涯・10年間とどちらの分析においても、HBP測定の導入により一人当たりにかかる平均医療費は削減した。さらに10年間の費用分析において総医療費について検討した結果、HBP導入により10年間で約10兆2,400億円(男性:3兆8,500億円、女性:6兆3,900億円)の医療費の削減につながることが示唆された。この総医療費の削減額について感度分析を行ったが、医療費の削減額は4兆6,400億円から13兆200億円と十分な医療費の削減が認められた。この医療費の削減は、降圧治療を受けておらず随時血圧高血圧域かつ家庭血圧正常血圧域である者が、家庭血圧の導入により新規受診が不必要であると判断されることで、本来費やされるはずであった医療費が回避されること、また家庭血圧導入による的確な血圧コントロールによるその後の脳卒中発症数の低下に起因するものであった。一方、効果分析を行った結果、一生涯・10年間とどちらの分析においても、生存年数はわずかに延長していたが大きなものではなかった。しかし、公衆衛生学的な観点からHBP導入の効果を検討した結果、総死亡者数・総脳卒中発症者数がHBP導入により、それぞれ10年間で約12,000人・約41,000人減少した。

結論:未治療随時血圧高血圧者において家庭血圧を導入することで医療費が削減することが示唆された。家庭血圧の更なる普及が望まれる。

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© 2008 本論文著者

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