医療経済研究
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19 巻, 3 号
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巻頭言
特別寄稿
  • 大野 竜三
    2008 年19 巻3 号 p. 201-210
    発行日: 2008年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    日本学術会議の主たる役割は、約83万人の科学者コミュニティの代表機関として、政府からの諮問への答申や進んで提言を行なうことにある。直接的・間接的喫煙は、これまでの国内外における多数の疫学的および実験的研究によって、がん、循環器疾患、呼吸器疾患などさまざまな健康障害の原因になり、かつ経済的損失も与えていることが科学的根拠を持って示されている。残念ながら、わが国はタバコ規制に関しては最後進国に属している。タバコの健康障害や火災・環境汚染から国民を守り、健康面・環境面においても世界でリーダーシップを発揮するために、脱タバコ社会を実現させることが科学者の責務であるとの視点に立ち、日本学術会議は更なる啓発や法的規制に関する提言を行なうべく準備中である。

論文
  • 福永 英史, 大久保 孝義, 小林 慎, 田巻 佑一朗, 菊谷 昌浩, 中川 美和, 小原 拓, 目時 弘仁, 浅山 敬, 戸恒 和人, 橋 ...
    2008 年19 巻3 号 p. 211-232
    発行日: 2008年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:近年の医療費の高騰、財政難を背景に、限られた医療資源の有効活用が求められている。特に費やされる医療費中で大きな割合を占める高血圧性疾患について、費用対効果を考慮した治療の効率化は重要な課題である。家庭における自己測定血圧(家庭血圧)は、白衣高血圧を発見できるなど医療環境下で測定される随時血圧に比べ予後予測能に優れており、医療費の削減につながることが期待される。本研究は未治療随時血圧高血圧者に高血圧治療が行われると仮定した場合の、高血圧診療に家庭血圧測定を導入することによる医療費の削減額を試算することを目的とした。

    方法:本研究では日本の40歳以上の男女6,759万人を対象と仮定し、費用対効果分析を行った。分析にはマルコフモデルを用い、データは家庭血圧を導入した高血圧・循環器疾患に関するコホー卜研究である大迫研究のデータおよび厚生労働省発表の統計資料等を使用した。分析期間は一生涯・10年間といった2通りについて検討した。

    成績:費用分析の結果、一生涯・10年間とどちらの分析においても、HBP測定の導入により一人当たりにかかる平均医療費は削減した。さらに10年間の費用分析において総医療費について検討した結果、HBP導入により10年間で約10兆2,400億円(男性:3兆8,500億円、女性:6兆3,900億円)の医療費の削減につながることが示唆された。この総医療費の削減額について感度分析を行ったが、医療費の削減額は4兆6,400億円から13兆200億円と十分な医療費の削減が認められた。この医療費の削減は、降圧治療を受けておらず随時血圧高血圧域かつ家庭血圧正常血圧域である者が、家庭血圧の導入により新規受診が不必要であると判断されることで、本来費やされるはずであった医療費が回避されること、また家庭血圧導入による的確な血圧コントロールによるその後の脳卒中発症数の低下に起因するものであった。一方、効果分析を行った結果、一生涯・10年間とどちらの分析においても、生存年数はわずかに延長していたが大きなものではなかった。しかし、公衆衛生学的な観点からHBP導入の効果を検討した結果、総死亡者数・総脳卒中発症者数がHBP導入により、それぞれ10年間で約12,000人・約41,000人減少した。

    結論:未治療随時血圧高血圧者において家庭血圧を導入することで医療費が削減することが示唆された。家庭血圧の更なる普及が望まれる。

研究ノート
  • ―訪問看護ステーション看護師を対象としたコンジョイン卜分析―
    緒方 泰子, 福田 敬, 橋本 廸生, 吉田 千鶴, 新田 淳子, 乙坂 佳代
    2008 年19 巻3 号 p. 233-252
    発行日: 2008年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    背景:人口の高齢化や疾病構造の変化等を背景に、看護ニーズの増大が予想される。しかしながら、看護師がいずれの職場においても充足しているとは限らないのが現状である。特に、在宅ケアにおける役割が期待される訪問看護ステーションでは、常に人員不足の状態にある。これまで、こうした不足人員を満たすために、看護師が就業時に重視する因子に関する実態調査が繰り返し行われてきたが、因子間の相対的な重要度を量的に評価した研究は殆ど行われていない。

    目的:①看護師が就業先を決定する際に相対的に重視している職場属性とその効用を明らかにする、②就業先選好に関する仮想的質問の回答の再現性を検証する。

    方法:K県の全ステーション313ヵ所への一次調査(調査協力意思の確認)の結果から77ステーション・看護師369人を対象に郵送調査を行った。調査票には、事業所票と看護師票があり、後者では、看護経験、5つの属性(勤務形態、月給、残業時間、職場環境・組織文化、教育・研修)を組合せた仮想の職場10ヵ所の何れかに就業するとした場合の希望順位等を尋ねた。仮想の職場の属性間の相対重要度を明らかにするためコンジョイント分析を用いて分析した。

    結果:事業所票は53事業所から、看護師票は64事業所の235人から回答された。「仮想の職場」への就業希望順位を、重複なく回答した221人を有効回答として分析した。回答者は女性99.1%、平均年齢41.0歳、総看護経験は平均15.2年、訪問看護経験は平均5.0年だった。5つの属性の平均相対重要度は、勤務形態47.1%、職場環境・組織文化23.6%、教育・研修10.8%、月給9.8%、残業時間8.8%であり、現実の勤務形態別にも同様の結果であった。看護師が仮想の職場を選ぶ際、どの「勤務形態」を選択するかは、現実の勤務形態と関連した。「月給」の効用値は、家計の年間収入や自身の現実の月給額と関連した。

    結論:K県の全てのステーションを対象に、郵送法による就業先選好に関する調査を実施し、コンジョイント分析を行った。多様な勤務形態による求人や、業務上の責任範囲や組織的バックアップ体制などの「職場環境・組織文化」に関する条件を整え、「教育・研修」の機会を確保しておくことは、ステーションの人員確保において重要である可能性が示された。今後は、5つの属性に「職場の種類」を加え、実際の求職者を対象とした場合の就業先決定時に優先される因子を明らかにしていく必要がある。

  • ―介護サービス供給政策の比較静学分析とその実験経済学的検証―
    赤木 博文, 稲垣 秀夫, 鎌田 繁則, 森 徹
    2008 年19 巻3 号 p. 253-270
    発行日: 2008年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    我が国では、基本的な福祉サービスの1分野である介護サービスの配分も市場原理に委ねられている。この理由は、営利企業の参入も認められた同市場で、事業者間の競争がサービスの効率的生産をもたらすと同時に、そのサービスの質的向上が図られると期待されたからである。しかし、市場にサービスの質を識別できない消費者が一定割合存在するのならば、彼らを顧客とする事業者が現れ、そして、生き残る可能性は存在する。本稿は、高い質のサービスを提供する事業者と低い質のサービスを提供する事業者が混在する市場において、どのような政策を実施すれば市場に出回るサービスの質を向上させることができるのかを理論的に考察すると同時に、実験によって検証して、その政策効果を確かめた。分析の結果、有効な政策としては、1)介護サービス報酬単価の引き上げ、2)高い質を生産する事業者の生産費用を引き下げるための環境整備、そして、3)低い質のサービスを生産する事業者の生産費用を引き上げるための規制が考えられる。

    従来の研究では、特定の制度や特別の監視機能の設置によって市場に出回るサービスの質の向上を図ることを主張するものが多かったが、これに対して、本稿では、現実の介護保険制度を想定して価格規制は前提とするものの、事業者の報酬単価や生産費用など市場の外部環境を政府が適切に整えることによって市場に出回るサービスの質を改善できるかどうかを検証している。これは利潤最大化を目指す事業者の自発的な行動の結果である点で、これまで出されてきた先駆的研究とは異なるものである。

    なお本稿の付録には、本論で得られた比較静学結果の現実的有効性を確かめるために行われた実験結果の概要を掲載した。この実験は、学生を被験者とした再現実験で、被験者には事業者として、市場に質の識別能力に欠ける消費者が常に一定割合存在する場合に、自分が高低2つの質のサービスのうちどちらのサービス供給するのかを選択するものである。介護報酬単価やサービスの生産費用の設定を変えて繰り返し実験した結果、ほぼ理論通りの結果が再現された。

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