新医師臨床研修制度の導入以降、研修医が研修先及び研修修了後の就業場所を自ら選択できる状況となり、医師不足の地域や医療機関にとって、研修医の就業場所の選択要因を把握することが重要となっている。そこで、本稿では、研修医が臨床研修後の就業場所の選択の際にどのような要因を重視するのかを定量的に把握し、医師不足の地域や医療機関が研修を終えた研修医を確保するための有効策について検討した。
分析手法にはコンジョイント分析を用いた。まず、調査協力の応諾を得た31病院の研修医1,227人に対してアンケートを実施し、2つの仮想医療機関のうちどちらを勤務先に選ぶかという質問を5問ないし6問行った。仮想医療機関の属性(勤務条件)には、1週当たり勤務時間、診療について指導してくれる医師の存在、1ヶ月当たり夜間宿直回数、学会や研修会への出席、医療機関の規模、立地場所、年間給与額の7つを採用した。次に、回答結果をランダムパラメータロジットモデルにより分析し、各属性に対する研修医の選好を推定した。
アンケートの回答率は29.1%(=357/1,227)であった。357人の研修医の選好を推定した結果、学会や研修会への出席が休暇扱いから出張扱いで可能になること、立地場所が中小都市から大都市へ変わること、年間給与額が増えることの限界効果の符号は正であり、研修医が就業場所を選択する際に魅力的な要因となった。一方、1週当たり勤務時間が増えること、診療について指導してくれる医師がいないこと、1ヶ月当たり夜間宿直回数が増えること、中小病院から診療所へ変わること、立地場所が中小都市からへき地へ変わることは限界効果の符号が負であり、研修医にとって敬遠される要因となった。診療について指導してくれる医師がいることに対する支払意思額が研修医平均で2,411万円と最も高く、次いで医療機関の立地場所がへき地から大都市へ変わることが1,647万円と高かった。
本研究により、研修医は就業場所の選択の際、診療について指導してくれる医師がいること、医療機関の立地場所がへき地でないことを特に重視することが明らかとなった。へき地等医師不足の地域や医療機関が研修医を研修修了後に確保するためには、地域の医療機関の再編や拠点病院からの指導医派遣等により診療について指導できる医師を確保し、充実した後期研修の体制を整備することが重要である。