医療技術の経済評価においては、その標準的な方法論は確立してきているが、歴史的な経緯から各国の医療制度が種々の形態をとっているために、どのように制度の中で活用できるかは、各国の状況に大きく依存する。
わが国においては、1992年から、新薬の薬価申請時に「医療経済学的評価資料」の添付が認められている。現時点では、新薬の価格算定における薬剤経済学研究の取り扱いルールが明確でなく、データを提出しても薬価への反映は明確でない。一方で、世界的には欧米諸国だけでなく、韓国やタイといったアジア諸国でも医療経済評価を活用する国々が現れはじめ、国際的に見てもわが国の取り組みは残念ながら後れをとっている。
そこで本調査では、日本における制度的な応用可能性を検討するために、2011年2月から3月にかけて、医療経済評価を用いている代表的な7カ国(イギリス、スウェーデン、オランダ、カナダ、オーストラリア、韓国、タイ)を対象として、現地の医療技術評価(Health Technology Assessment:HTA)機関への調査を行った。
調査した主なHTA機関は以下の通りである。(1)イギリス:National Institute for Health and Clinical Excellence(NICE),(2)スウェーデン:Tandvårds-och läkemedelsförmånsverket(TLV, Dental and Pharmaceutical Benefits Board), (3)オランダ:College voor zorgverzekeringen (CVZ, Healthcare Insureance Board),(4)カナダ:Canadian Agency for Drugs and Technologies (CADTH),(5)オーストラリア:Pharmaceutical Benefits Advisory Committee (PBAC), (6)韓国:Health Insurance Review and Assessment Service( HIRA),(7)タイ:Health Intervention and Technology Assessment Program(HITAP)。各国のインタビューでは統一した質問票を用いて、主に(1)各国の医療制度・薬価制度、(2)HTA組織の概要、(3)医療経済評価の実施方法、(4)医療経済評価の政策への活用方法について、事前に作成した質問紙を用いて半構造化されたインタビューを行った。
次にそれらの結果を受けて、わが国の制度における医療経済評価の活用方法について、生じうるメリット・デメリットとともに検討した。我々が検討したのは(1)保険償還や償還範囲の設定、(2)新薬の薬価算定、(3)既収載薬の薬価改定、(4)ガイダンスでの活用である。
ただし、本検討における実施可能性等は慎重に考慮しなければならない。今後も医療経済評価の政策への応用に向けて、継続的に議論を重ねて行く必要があるだろう。諸外国の経験から学ぶべきところは多く存在するはずであり、本調査がそのような議論の出発点となりうるものと考えられた。