2013 年 24 巻 2 号 p. 128-142
本研究は、居宅系の介護サービスとしてその役割が重視されていながら、提供主体が偏在する通所リハビリテーションに着目し、新たな提供主体の登場が介護費や介護サービスの選択に与える影響をレセプトデータから検証した。
分析では、福井県の介護保険のレセプトデータを使用した。福井県では、2007年3月まで永平寺町・池田町・美浜町・おおい町の4つの町に通所リハビリテーションの提供主体がなかったが、2007年4月より、おおい町で、従来からあった介護老人保健施設が通所リハビリテーションと介護予防通所リハビリテーションの提供を始めた。そこで、永平寺町・池田町・美浜町の住人をコントロールグループ、おおい町の住人をトリートメントグループとし、2006年度と2007年度の介護費の平均値の比較や「差の差分(difference-in-differences:DID)」による推定から、新たな提供主体の効果を検証した。
その結果、第一に、おおい町では、通所リハビリテーションの介護給付費が増加する一方、ほかの介護サービスの介護給付費の合計額がそれ以上に減少することが集計値よりわかった。そのほかの町では前後での変化は小さく、おおい町で観察された変化は通所リハビリテーションの提供開始によるものと考えられる。DIDによる最小二乗推定でも、通所リハビリテーションの介護給付費が平均して1ヵ月あたり約1200円増加する一方で、それ以外の居宅系の介護サービス等の介護給付費の合計額は、平均して1ヵ月あたり約5500円減少することがわかった。
第二に、通所リハビリテーション以外の居宅系の介護サービス等では、通所リハビリテーションと同様に介護給付費が増加したサービスと、逆に減少したサービスが観察された。
以上の結果から、通所リハビリテーションに関しては、まったく提供主体がなかった自治体内で新たに提供主体が現れると、通所リハビリテーションの介護給付費が増加する一方、それよりもはるかに、そのほかの介護サービスの介護給付費が減少することがわかった。これは選択可能な介護サービスの種類が増えたことで、利用者がより自分に合った介護サービスを選び、これまで生じていた必ずしもニーズに合致していない非効率な介護サービス需要が減少したものと考えられる。すなわち、介護サービスの提供体制の整備が全体としての介護給付費を下げた事例として注目すべきものと思われる。