抄録
目的:鎌倉浩之ら(2010)の論文には,P. edulis の亜種として,紫色の果実の P. edulis fo. edulis と黄色の果実の P. edulis fo. flavicarpa が存在することが記載された.両亜種の含有フラボノイドについて,両亜種は異なった成分化学プロファイルを示したことが報告された.そこで今回は海外の Passiflora sp. の学術文献の中から P. edulis に関する文献を抽出した.次に両亜種のフラボノイドなどの成分組成の学術情報を収集し,両亜種における成分組成の比較検討を行った.また両亜種の神経薬理学的,生物学的活性効果の学術情報も収集し,両亜種におけるその活性効果の比較検討を行った.そして両亜種のフラボノイドなどの成分組成の相違がその活性効果に及ぼす影響について考察した.
方法:P. edulis の 2 つの亜種に関する報文として,Ayres et al.(2015),He et al.(2020),および Rai et al.(2022)の 3 つの文献を抽出した.そしてこれらの 3 つの報文に引用された文献の中から 3),4)および14)~ 25)の文献を抽出した.そこから P. edulis の 2 つの亜種について,フラボノイド,テルペノイドなどの成分組成,および薬理学的,生物学的活性効果の学術情報を収集し,情報収集結果を基に,それらについて比較検討を行った.
結果:P. edulis の両亜種の葉の抽出物について,HPLC などの植物化学分析結果として,両亜種のクロマトグラフィーにおいて,お互いに全く異なったフラボノイドの成分化学プロファイルが示された.また含有フラボノイドの定量分析として,イソオリエンチン,イソビテキシンについては,P. edulis fo. flavicarpa の葉の抽出物は P. edulis fo. edulis よりも含有濃度が高かったことが示された.一方,P. edulis の両亜種の抽出物には,共通して抗不安効果,抗うつ効果,鎮静効果などの向精神・神経効果が見られた.しかし抗不安効果については,P. edulis fo. flavicarpa の方が強力であり,抗うつ効果については,P. edulis fo. edulis の方が強力であることが,知見として得られた.P. edulis の両亜種の抽出物に見られた向精神・神経効果の共通性については,両亜種の抽出物であるフラボノイドなどの成分組成の相違と相反する結果となった.
結論:P. edulis の両亜種は向精神・神経効果を共有していることが近年の神経薬理学的研究から明らかになった.このことは,P. edulis の葉の抽出物がブラジルにおいて,多くの精神・神経疾患の治療に植物療法(伝統的民間療法)として,歴史的に長く使われてきた科学的実証と考えられる.しかしこのことは,両亜種の抽出物であるフラボノイドなどの植物化学的成分組成の相違と矛盾している.そこで P. edulis の両亜種の含有成分の C-グリコシルフラボンなどのフラボノイド,テルペノイド,その他の二次代謝生成物を包括的に捉えてみた.そのことによって,両亜種の向精神・神経効果などの生物学的効果の類似性について,植物化学的に追究できると考える.