2022 年 13 巻 2 号 p. 55-60
60カ月齢の黒毛和種種雄牛が後躯麻痺による歩様異常を主訴に受診した.脊髄疾患を疑ったが,身体検査および血液検査では特徴的所見が得られず診断できなかった.牛伝染性リンパ腫ウイルス(BLV)陽性であり,鑑別診断としてリンパ腫も考慮されたが,リンパ球増多や体表リンパ節の腫大はみられず生前診断に至らなかった.病理解剖では体表および体腔内リンパ節の腫大はみられず,主要臓器にも著変を認めなかった.死後実施した脊椎周辺組織のCT検査では,胸腰部の複数の神経根分岐部で神経根と同等のCT値領域拡大を認め,神経根が腫大もしくは軟部組織に取り巻かれていることが示唆された.椎体切除後に病理学的に脊髄を精査したところ,腰髄硬膜外における異常リンパ球の浸潤が観察され,病理組織学的にT細胞性リンパ腫と診断された.本症例は牛では非常にまれな腰髄硬膜外のT細胞リンパ腫を発症して後躯麻痺を呈したと考えられた.