2019 年 46 巻 3 号 p. 237-241
目的:著者らは骨盤臓器脱や腹圧性尿失禁患者の経腹的超音波検査で膣壁が肥厚している印象を持っていた.そこで,骨盤臓器脱や腹圧性尿失禁とそれらの疾患のない泌尿器科外来患者で経腹的超音波検査による膣壁の厚さ計測を試みた.対象と方法:泌尿器科外来を受診した女性患者のうち,臥位での経腹的超音波検査の正中縦断面写真からレトロスペクティブに膀胱三角部後方の膣前壁と後壁を合わせた厚さ(膣厚)を計測できた症例を対象とした.過活動膀胱患者と膀胱炎患者をコントロール群とし,膣厚と年齢の関連や,コントロール群と骨盤臓器脱群や腹圧性尿失禁群の膣厚を比較した.結果:コントロール群は178例で,年齢は64.6±18.4歳(平均±標準偏差),膣厚は9.2±2.7 mmで,年齢と膣厚に関連はなかった.骨盤臓器脱群は76例で,年齢は65.1±9.2歳,膣厚は14.7±4.4 mmで,コントロール群より有意に膣は肥厚していたが,骨盤臓器脱に対するメッシュ手術後3ヵ月では膣厚は薄くなっていた.腹圧性尿失禁群は12例で,年齢は65.1±12.0歳,膣厚は14.7±4.4 mmで,コントロール群より有意に膣は肥厚していた.尿失禁防止術の術後3ヵ月の膣厚は術前後で差はなかった.結論:膣壁の肥厚は膣に負荷のあることを示しており,骨盤臓器脱や腹圧性尿失禁の存在を示唆し,骨盤臓器脱や腹圧性尿失禁の診断の一助となり得ると考えられた.