2024 年 32 巻 3 号 p. 276-281
パワーハラスメントによる精神障害は,職域における「いじめ・嫌がらせ」という加害行為の結果生じるトラウマ反応性の病態であり,当座は適応障害の診断となることが多い.症状として不安感,抑うつ気分に加え,睡眠障害・悪夢・フラッシュバック・過覚醒・回避反応などを伴う傾向がある.職場環境調整をはじめとする治療的介入によってもこうした症状が6か月以上続く場合,「PTSD様症状を伴う持続トラウマ反応」もしくは「うつ病」へと進行する可能性が高い.こうなると治療反応性は乏しく予後不良であり,PTSDの「認知と気分の陰性変化」,複雑性PTSDの「自己組織化の障害」と類似した病態を呈し,深刻な社会機能低下へ至りやすい.こうした精神障害をきたした事例では,様々な介入によっても従前レベルに全般的機能が回復できることは少ないため事態は深刻である.パワーハラスメント被害は誰にでも起こりうるという大前提のもと,実効的な対応策を企業内で予め策定しておくことが必要不可欠であると考えられる.