産業精神保健
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特集 職場のアルコール問題の解決
  • 米沢 宏, 春日 未歩子
    原稿種別: 特集
    2024 年 32 巻 2 号 p. 161-164
    発行日: 2024/06/20
    公開日: 2024/06/20
    ジャーナル フリー
  • 湯本 洋介
    原稿種別: 特集
    2024 年 32 巻 2 号 p. 165-170
    発行日: 2024/06/20
    公開日: 2024/06/20
    ジャーナル フリー

    アルコール依存症の歴史を辿れば,1784年にBenjamin Rushが「飲酒への渇望」や「制御困難を記述し,以降神経生物学的基盤を背景にしたアルコール依存症の疾患モデルの確立や,「自己治療仮説」に示される心理的要因など多様なバックグラウンドが指摘されている.

    現在に視点を移すと,DSM5またICD-11(原稿作成時点では正式な和訳は未公開である)のアルコール関連疾患の操作的診断基準を見ると,アルコール問題がより軽症の群にも早期介入や支援を積極的に行っていく姿勢や,アルコールによって引き起こされる他者への害への注目が反映されている.アルコールによって引き起こされる問題は,200以上の疾患や怪我の原因の要素になっていると指摘されており,健康への多大な影響を生じ得る.早期介入や連携が重要視される中,SBIRTSが様々なフィールドで問題飲酒のある人々をスクリーニングし,簡易介入への導入,また専門医療機関や自助グループへの紹介の方法として注目されている.

  • 横山 顕
    原稿種別: 特集
    2024 年 32 巻 2 号 p. 171-177
    発行日: 2024/06/20
    公開日: 2024/06/20
    ジャーナル フリー

    アルコールはアルコール脱水素酵素1B(ADH1B)でアセトアルデヒドになり,アルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)で酢酸に代謝される.遺伝子多型による低活性型ADH1Bは高活性型よりも長時間アルコールが停滞しアルコール依存症(ア症)になりやすい体質となる.一般の頻度は5–7%だがア症では30%である.ALDH2ヘテロ欠損者はコップ1杯のビールで赤くなる体質だが,赤くならない人もいてア症でも20%弱がこのタイプである.アセトアルデヒドの発癌性で飲酒による食道癌のリスクが高まる.日本ではALDH2欠損型とADH1B高活性型の頻度が高く,この二つに守られてア症が欧米より少ない.そのため飲酒に肯定的な社会風潮が強いが,一方で多量飲酒はア症をはじめ様々な悲惨な病気を引き起こしている.本稿ではアルコール代謝との関連も含めて飲酒による発癌,肝臓,膵臓,代謝,骨格系,ア症などの健康障害につき解説する.

  • ―職場での応用―
    高野 歩
    原稿種別: 特集
    2024 年 32 巻 2 号 p. 178-183
    発行日: 2024/06/20
    公開日: 2024/06/20
    ジャーナル フリー

    ハームリダクションは,より安全に薬物・アルコールを使用する方法を提案したり,より健康的な生活を支援したりする様々な取り組みの総称である.物質使用に伴い生じるハームは物質の使用方法,使用する個人の状態や環境により異なるため,個別支援を行う際には,ハームの内容や,ハームやリスクに対する本人の認識や行動変容の準備状況を丁寧に確認する必要がある.ハームをどの程度減らすのか,どのように減らすのかも多様であり,目標設定や具体的な行動変容の方法を自己決定できるように支援者はサポートする.本稿では,Harm reduction psychotherapyの方法を紹介しながら,アルコール問題に対するハームリダクションに基づくアプローチについて説明し,職場での介入について概説する.

  • 田中 完
    原稿種別: 特集
    2024 年 32 巻 2 号 p. 184-189
    発行日: 2024/06/20
    公開日: 2024/06/20
    ジャーナル フリー

    職場におけるアルコール問題には身体的問題・精神的問題・社会的問題と3つのカテゴリーがあり広範に及ぶ.今までは断酒が唯一の方法とされたこともあって治療や介入に難航する事例が多かった.しかし2018年に公開されたアルコール使用障害の診断治療ガイドラインには減酒治療・指導も効果があることが示され,さらに早期から介入する必要性が示唆された.職場は以前から飲酒文化が根付き,健康診断も行われることから早期介入に最適な場である.その主役を担う産業保健職は,ガイドラインに従って正しい介入方法を用い積極的に指導することが期待される.また職場の飲酒文化には,科学的に正しくない理解による良くない習慣や動機付けが存在している.機会あるごとにAUDITを用いて問題飲酒者を同定しハイリスクアプローチをするとともに,飲酒文化についても正しい知識を与え,職場全体でアルコールに対する認識を変えていく予防教育も重要になる.

  • 角南 隆史
    原稿種別: 特集
    2024 年 32 巻 2 号 p. 190-196
    発行日: 2024/06/20
    公開日: 2024/06/20
    ジャーナル フリー

    職場におけるアルコール使用障害の対策は重要である.職場におけるアルコール使用障害は,身体・精神疾患などの医療的な問題だけでなく,プレゼンティーズム(健康問題による出勤時の生産性低下)やアブセンティーズム(健康問題による欠勤)にも関連している.またアルコール・ハラスメント(アルハラ)や暴言・暴力,飲酒運転などの社会的な問題にも関連している.一方で,お酒を飲みながら職場の仲間と親交を深める「飲みニケーション」と呼ばれる文化が存在する職場も多いだろう.こういった様々な側面を見せるアルコール使用障害に介入するときに,どこからどのように介入したらよいのか分からない,と感じている産業保健職の方々も多いのではないだろうか.本稿では,職場のアルコール使用障害に簡単に介入できるプログラムやWEB上のツール(ほとんどのものがWEB上に掲載されており,自由に利用することができる)を紹介する.

  • 北田 雅子
    原稿種別: 特集
    2024 年 32 巻 2 号 p. 197-202
    発行日: 2024/06/20
    公開日: 2024/06/20
    ジャーナル フリー

    動機づけ面接(以下MI)は,アルコール依存症患者の飲酒行動への介入から生まれた面談スタイルであり,行動変容ステージの「前熟考期」「熟考期」へのアプローチとして,そしてアルコール使用障害の治療法として認知行動療法と共に注目されている.MIはカール・ロジャーズと同僚が提唱した来談者中心療法の理論に基づいており,来談者に対処法を教えたり,認知を変えたり,過去を掘り返したりしない.その代わりに来談者が何を求めているのか,何を心配しているのか,どのような変化を望んでいるかに焦点を当て,お酒を減らしたいけど飲みたい,というクライエントの両価性の解消を目指し行動変容を促す面談である.MIのマインドセットとそのスキルは,アルコール問題の一次予防から三次予防やすべての健康づくりの取り組みに活用できる汎用性の高い面談スタイルである.

  • 米沢 宏
    原稿種別: 特集
    2024 年 32 巻 2 号 p. 203-209
    発行日: 2024/06/20
    公開日: 2024/06/20
    ジャーナル フリー

    ブリーフインターベンションやハームリダクション,リスクコミュニケーションのコンセプトを踏まえ,動機づけ面接,ナッジなどのアイデアを活用した,産業保健職が行う減酒指導を紹介した.来談者は自分の行動を変えることに対し両価的であることを前提に,まず良好な相談関係を構築し,訴えを丁寧に聞き取り,課題を明確にし,共有する.1日2合を超える飲酒で健康障害やさまざまな問題の発生率が高くなることを伝えた上で,実現可能な減酒目標の設定を来談者との対話を通して行い,実行に移し,フォローしていく.その具体的なやり取りを逐語的に提示し,ポイントとなる発言に適宜コメントを付けながら解説を行った.一方,対応困難例には人事労務と連携・役割分担しながら問題を直面化し,治療につなげていくことの重要性も示した.減酒に成功すると生活の質が向上し人生が変わる可能性がある.産業保健の醍醐味と言えるだろう.

  • 吉本 尚
    原稿種別: 特集
    2024 年 32 巻 2 号 p. 210-215
    発行日: 2024/06/20
    公開日: 2024/06/20
    ジャーナル フリー

    アルコール使用障害のケアが世界的に不十分であり,特に治療ギャップ(治療が必要な患者が医療機関を受診しないこと)が問題である.我々は内科等でのアルコール低減外来を展開し,診断にかかわらずアルコールに悩むすべての人を対象に,減酒や断酒を目標とした治療を提供している.事前にAUDITを含めた問診票の記入,呼気アルコール濃度チェックを行い,治療薬としてアカンプロサートやナルメフェンを使用し,症状や副作用に合わせて他の薬剤も併用している.これまで239人が同外来を受診し,有意な減酒効果が確認された.我々はこれまでの知見を活かし,職場のアルコール問題にも対応可能な,健康診断および保健指導での介入,医療機関との連携,地域での対応に関する3つのガイドラインを2024年に公開した.純アルコール量やアルコール健康障害の大まかなとらえ方,減酒や治療ギャップの改善を目指しており,職場や地域での適切な対応が望まれる.

  • 倉持 穣
    原稿種別: 特集
    2024 年 32 巻 2 号 p. 216-222
    発行日: 2024/06/20
    公開日: 2024/06/20
    ジャーナル フリー

    「否認の疾患」とも呼ばれるアルコール使用障害は,職域において様々な問題を引き起こす疾患であるにもかかわらず,患者の多くは「自分の飲酒問題は軽い」と主張する.医療の側から見ても,予備軍~軽症群に対しては産業保健職による短期介入・減酒指導が有効であり,重症群に対しては専門精神科病院での教育入院が可能となるが,中等症群に対しては対応する治療的受け皿が我が国には存在しなかった.専門医受診を拒絶する彼らに対して,産業保健職が有効な手立てを取れないことも多かった.「減酒外来」などの治療も行っているアルコール専門外来クリニックは,専門医受診への心理的敷居を大幅に低くする.さらに患者の重症度に合わせて,「断酒外来」や「断酒デイケア」などへシフトすることができるため,可変的で柔軟な対応が可能となる.その際には主治医と産業保健職との密な情報交換・医療連携が不可欠となる.本稿では,当院で行っている専門外来治療について概説する.

  • 垣渕 洋一
    原稿種別: 特集
    2024 年 32 巻 2 号 p. 223-228
    発行日: 2024/06/20
    公開日: 2024/06/20
    ジャーナル フリー

    1963年に国立療養所久里浜病院(現:久里浜医療センター)に専門病床が設立され,アルコール使用障害に対して開放病棟で断酒教育プログラムを行う専門的な入院治療が始まった.その後,患者層の変化(女性,高齢者,若年者が増加),他の精神障害(神経発達症,摂食障害,双極性障害など)を合併する人の増加などにより,認知行動療法の導入,薬物療法の発展など多くの工夫が重ねられ,現在にいたっている.本稿では,入院治療の変遷,現在の入院治療の適応と概要,家族支援,自助会,職場との連携について述べる.

活動報告
  • 落合 舞子, 中坪 太久郎, 高岡 佑壮, 磯貝 愛菜, 関 美貴子, 沢田 雄一, 出村 真弓, 一宮 哲哉
    原稿種別: 活動報告
    2024 年 32 巻 2 号 p. 229-237
    発行日: 2024/06/20
    公開日: 2024/06/20
    ジャーナル フリー

    うつ病では認知機能障害が認められ,寛解後も十分な改善がみられないと言われている.本研究では,従来のリワークプログラムに,認知機能障害の回復を目的とする認知リハビリテーションの技法を取り入れ,実践と評価を行った.認知リハビリテーションは,文章の要約,各自行うPCを用いた脳トレゲーム,グループで話し合うブリッジングセッションで構成された.参加者は,精神科クリニックに通院中で,うつ状態により休職した患者37名であった.プログラムの前後で質問紙検査と認知機能検査を実施し,統計的に分析した.t検定の結果,すべての質問紙検査において0.1%水準で有意な改善がみられた.認知機能検査の結果から,一部の実行機能,ワーキングメモリー,反応抑制,精神運動速度に改善がみられた.リワークプログラム参加者を対象とした認知リハビリテーションにおいては,参加者が飽きない工夫と,動機づけの維持が重要と考えられた.

文献レビュー
  • ―疫学と認知行動的介入の研究動向―
    高野 裕太, 岡島 義
    原稿種別: 文献レビュー
    2024 年 32 巻 2 号 p. 238-242
    発行日: 2024/06/20
    公開日: 2024/06/20
    ジャーナル フリー

    国民の睡眠に対する注目度が非常に高まっている.本稿では,睡眠の問題(睡眠時間,不眠症)と仕事の生産性および精神的健康の関連について疫学研究と認知行動療法の介入効果について文献レビューを実施した.睡眠時間に関しては,①6時間未満の者では精神的健康の悪化,生産性の低下が認められること,②勤労者自らが自分に必要な睡眠時間を把握することの重要性,③睡眠時間を確保するための工夫,について言及した.不眠症に関しては,①不眠症は慢性化しやすいこと,②重症度が高くなるほど精神的健康の悪化と生産性の低下が顕著になること,③認知行動療法の有効性,について言及した.睡眠は健康を支えるために最も重要な要素であることから,睡眠をケアすることは,健康的に働き,well-beingを高めることにもつながるだろう.

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