産業精神保健
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特集 職場における対話の新しい価値を考える
  • ~職場における対話~
    野﨑 卓朗, 石川 浩二
    原稿種別: 特集
    2025 年 33 巻 2 号 p. 89-90
    発行日: 2025/06/20
    公開日: 2025/06/20
    ジャーナル フリー
  • 斎藤 環
    原稿種別: 特集
    2025 年 33 巻 2 号 p. 91-95
    発行日: 2025/06/20
    公開日: 2025/06/20
    ジャーナル フリー

    フィンランドで開発された「オープンダイアローグ」は,近年急速に注目を集めつつある統合失調症急性期へのアプローチである.1980年代から実践されており,ほとんど入院治療や薬物治療を行わずに,きわめて良好な治療成績を上げている.発症直後,患者や家族からの依頼を受けて24時間以内に,「専門家チーム」が結成され,患者の自宅を訪問する.本人や家族,そのほか関係者が車座になって座り「開かれた対話」を行う.こうした対話実践で回復が起きてしまう事実は筆者に限らず,精神医療関係者に大きな衝撃をもたらした.本稿では,オープンダイアローグの七原則,とりわけ「不確実性の耐性」を維持しつつ,ゴールよりもプロセスを尊重すること,対話実践におけるリフレクティングの位置付け,患者の主観世界を尊重する「無知の姿勢」やポリフォニーの持つ意義などについて述べる.最後に日本における実装状況と今後の展望について簡単に紹介する.

  • 国重 浩一
    原稿種別: 特集
    2025 年 33 巻 2 号 p. 96-101
    発行日: 2025/06/20
    公開日: 2025/06/20
    ジャーナル フリー

    「対話」という言葉に付随しがちな「対等」という性質について,カウンセリングという場面から振り返った後で,人の語りをグループで応答する試みである,トム・アンデルセンのリフレクティング・チームとマイケル・ホワイトのアウトサイダーウィットネス・チームについて概説する.リフレクティングは,その構造を整えるだけでなく,どのように話すのかが大切になるため,認証,あれもこれも,ためらいがちなどの姿勢が重要になることも説明する.

  • 米沢 宏, 春日 未歩子
    原稿種別: 特集
    2025 年 33 巻 2 号 p. 102-107
    発行日: 2025/06/20
    公開日: 2025/06/20
    ジャーナル フリー

    産業保健におけるオープンダイアローグの可能性と実践方法について論じた.オープンダイアローグ面接に臨むスタッフは,役割や専門性をいったん脇に置き,相談者の辛さや抱える困難に共感しながら話を聞いてみる.リフレクティングのコツとしては,相談者の方を見ないこと,マイナス評価を控え相談者の言動を肯定的に捉えること,いいことを話そうと思わないことが挙げられる.面接の場で「たくさんの声」(ポリフォニー)が語られることを大切にし,結論を急がないこと(不確実性の耐性)が何よりも重要である.オープンダイアローグ導入によって休職予防や心身の不調者の状況改善,さらには復職支援にも助けになり,従業員のメンタルヘルスと職場環境改善に貢献できると考える.「初めてオープンダイアローグ面接に参加するスタッフへ」というリーフレットを作成したので活用されたい.

  • 米沢 宏
    原稿種別: 特集
    2025 年 33 巻 2 号 p. 108-113
    発行日: 2025/06/20
    公開日: 2025/06/20
    ジャーナル フリー

    企業の健康管理室におけるオープンダイアローグのモデル事例を提示した.外資系企業で長時間労働に苦しむ50代男性社員に対し,保健師,産業医,上司,人事担当者を交えた対話的面接を行うことで参加者全員が問題を共有し,男性社員は自身の価値を再認識し,より適応的な行動を取るようになった.関係者も各自の責任を自覚しながら解決に向けた行動を起こすことができた.開かれた対話を体験することで相談者は自分が大切にされている感覚を抱き,自分に関する第三者の語り(リフレクティング)を聞くことで新たな気づきが得られる.一方スタッフは複数で対応することで問題を一人で抱え込まずに済み,見落としが減り,精神的負担が軽減される.健康管理室で対話的面接を導入するための手順を示したので,関心がある仲間を見つけ,ぜひ試してほしい.

  • 春日 未歩子
    原稿種別: 特集
    2025 年 33 巻 2 号 p. 114-118
    発行日: 2025/06/20
    公開日: 2025/06/20
    ジャーナル フリー

    本稿では,フィンランドで発展した「早期ダイアローグ(Early Dialogues)」と「未来語りのダイアローグ(Anticipation Dialogues)」の特徴と,それらの組織支援への応用について論じる.早期ダイアローグは,支援者が抱く小さな心配事を共有することを出発点とし,関係性の悪化を未然に防ぐことを目的とする.一方,未来語りのダイアローグは,関係者が「うまくいっている未来」を共同で想像することで,対話的に関係性の再構築を図る実践である.筆者はこれらを企業の研修や職場支援に応用し,心配を語る文化と安心して対話できる場の形成が,心理的安全性や相互支援の促進に寄与することを実践から確認した.両手法は,関係性に焦点をあてた支援として,今後の組織開発に有効であると考えられる.

  • 井上 瞳, 川西 由香, 後藤 雅美, 鈴木 麻未
    原稿種別: 特集
    2025 年 33 巻 2 号 p. 119-124
    発行日: 2025/06/20
    公開日: 2025/06/20
    ジャーナル フリー

    LINEヤフーの「ぴあさぽ」は,社員同士が対話を通じて支え合うボランティアプロジェクトである.産業カウンセラーやキャリアコンサルタントの資格を持つ社員が,「オープンダイアローグ」や「2on1」を通じて心の整理や未来について考える時間を提供する.2021年に始まり,現在18名で運営されている.「ぴあさぽ」は,日常生活で得にくい「ていねいに聴いてもらう」経験を提供し,フィードバックを通じて心を軽くする効果がある.社員が率直に話せる場を提供し,専門的な支援が必要な場合には適切な窓口へ案内する体制も整えている.「ぴあさぽ」は今後も,社員にとって自由な対話の場を広げ,働きやすい環境づくりに貢献することを目指している.

  • 鈴木 隆
    原稿種別: 特集
    2025 年 33 巻 2 号 p. 125-129
    発行日: 2025/06/20
    公開日: 2025/06/20
    ジャーナル フリー

    日本と比べ高い生産性をあげ,独自の存在感を示すオランダ,デンマーク,中国・深圳,シンガポールの11のイノベーティブな組織を訪問した.いずれの組織も,対等でオープンな対話を実践し成果をあげていた.衆知を集め探究する対話は,交流する会話や合意する議論とは異なる.5つのポイント①多様性②主体性③傾聴④質問⑤内省をおさえることで,対話の実をあげることができる.日本が特に弱い①多様性②主体性に留意しつつ,国内の2つの企業において対等でオープンな対話を実践したところ,イノベーティブな成果をあげることができた.こうした対話は,ビジネスにおけるオープンダイアローグと言ってもよいのではないか.

資料
  • ―産業医面談記録を用いた後ろ向き観察研究―
    大石 志穂, 塚野 和代, 阿部 麻里, 川上 慎太郎, 松川 美穂, 齋藤 朗, 里村 嘉弘, 笠井 清登
    原稿種別: 資料
    2025 年 33 巻 2 号 p. 130-139
    発行日: 2025/06/20
    公開日: 2025/06/20
    ジャーナル フリー

    大学病院職員の就労支援充実のため,休職者の実態調査と再休職要因の探索を目的とした.2019年7月~2022年6月に,大学病院で産業医面談を受けた職員を研究対象とし,記述統計を用いた休職者の実態調査,ロジスティック回帰分析による再休職の要因探索を実施した.産業医面談を受けた者は227名,そのうち休職者は154名(就労継続者73名,再休職者42名,退職者39名),再休職割合(再休職者/休職者)は27.3%であった.再休職の要因探索では,再休職と「発症・受傷の経緯による分類:身体的負荷」との間に有意な負の関連(オッズ比0.33,95%信頼区間0.11–0.90),「90日を超える休職期間」との間に正の関連(オッズ比5.36,95%信頼区間2.16–14.14)があった.休職期間が90日を超えると再休職のリスクが高く,身体の問題を理由とした休職では再休職のリスクが低いことが示された.

文献レビュー
  • 金子 周平
    原稿種別: 文献レビュー
    2025 年 33 巻 2 号 p. 140-147
    発行日: 2025/06/20
    公開日: 2025/06/20
    ジャーナル フリー

    本研究では,文献レビューを通して,企業に勤めるASD者のソーシャルスキル向上との関連要因を考察した.第1に,本人周囲の職場関係者が自閉症特性に応じた就業環境の調整に向けた具体策をとることである.例えば,職場のノイズレベルに応じてイヤーマフの着用を認めることや,同僚によるサポートを充実させることで,社内でのASD者のインクルージョンが促進される可能性が示唆された.第2に,セルフ・アドボカシーのスキルを習得してもらうことである.それにより,当事者本人が職場に配慮事項を適切に伝え,能力を発揮しやすい働き方につながる可能性がある.今後は,同僚によるサポートが社内のインクルージョンに及ぼす影響や,セルフ・アドボカシーに関する研修や心理教育による認知・行動面の変化を調査することが望ましいと考えられる.

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