薬剤疫学
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短報
レセプトデータに基づく非結核性抗酸菌症患者への薬剤処方実態に関する調査
岩尾 友秀矢野 憲黒田 知宏
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2018 年 23 巻 2 号 p. 89-94

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抄録

近年,非結核性抗酸菌症の罹患者が急激に増加している.罹患者数は 2014 年に実施された全国調査によると,1980 年の調査時と比較して約 9.7 倍となったことが報告された.この中で,約 88.8 %を肺 MAC 症が占めている.肺 MAC 症は,中高年の女性を中心として増加しており非結核性抗酸菌症の急激な増加の要因となっている.肺 MAC 症の治療は,菌陰性化から 1 年以上に渡る化学療法が一般的である.専門家の間では,クラリスロマイシン(以下,CAM),リファンピシン,エタンブトール(以下,EB)を併用することで,耐性菌の発生を防ぐ化学療法が推奨されている.一方で,非結核性抗酸菌症患者に対する CAM の単剤投与は,耐性菌誘発の可能性が高いことから,専門家の間では原則禁忌とされている.また同様に,750 mg 超/日の EB 高用量投与も副作用の影響から推奨されていない.しかしながら,臨床現場において上記のような処方事例がどの程度存在するかについては,これまで広範な調査はなされていないため,その実態は不明であった.そこで本研究では,健康保険組合に加入している被保険者レセプトのうち,2015 年から 2016 年の 2 年間で非結核性抗酸菌症患者と推定される 571 人を解析対象とし,薬剤処方実態を調査した.その結果,3 カ月以上の長期間に渡る CAM 単剤処方が約 5.1 % (29 件),EB の高用量処方が EB 処方の 338 件中約 4.4 % (15 件) の割合でみられた.一般に,非結核性抗酸菌症は長期間の抗生剤投与が必要となるため,一部の患者は不利益を被る可能性がある.今後は,臨床現場に正しい情報を広く周知することが喫緊の課題であると考える.

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© 2018 日本薬剤疫学会
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