薬剤疫学
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23 巻, 2 号
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原著
  • 神谷 昌子, 渡辺 美智子, 山内 慶太
    2018 年 23 巻 2 号 p. 75-87
    発行日: 2018/09/20
    公開日: 2018/11/05
    ジャーナル フリー

    目的:日本の公開医薬品副作用データベースの活用として,PMDA の医薬品副作用データベース(JADER)を使って,総合感冒剤(一般薬)の服用により有害事象を発生した症例の集団的背景とその特性を統計的分析により明らかにすることを本研究の目的とする.

    方法:2004 年 4 月から 2015 年 6 月までに報告された対象症例 990 例について潜在クラス分析を実施する.対象集団は複数のクラスに分類され,それぞれの集団の特性を明示する.さらに,有害事象の報告件数と薬剤別の有害事象報告件数をクラス別に集計して各々の特化係数を算出し,高い数値を示すクラスの背景と有害事象との関係性を調べる.また,同じデータでシグナル検出を実施し,特化係数から得られた結果との関連性について検討する.

    結果:潜在クラス分析を行った結果,集団は 3 つのクラスに分けられた.クラス 1 は全体の 53.7%を占める原疾患や服用薬を持たない人々の集まりであり, ⌈ 健康群⌋とした.このクラスに特化した有害事象はアナフィラキシー反応などの免疫系疾患であった.クラス2 は全体の 33.2%を占める自己治療に積極的な集団であり, ⌈ 自己治療志向群⌋とした.特化した有害事象は重篤な皮膚障害であった.クラス 3 は全体の 13.1%で,クラス内の 90%が 60 歳以上であり,ほぼ全員が原疾患を持ち医療用薬を服用しているため ⌈ 高年齢通院治療群⌋とした.主な有害事象は間質性肺疾患と神経系障害であった.シグナル検出でシグナルが検出された特定薬剤は,その薬剤の有害事象が最も特化して発生しているクラスに属しており,その集団の特性を特定有害事象発生の背景要因として関連付けることができた.

    結論:医薬品有害事象報告データベースに潜在クラス分析を適用することで,有害事象の発生とその集団的背景の関係性を明らかにすることができた.本研究は,総合感冒剤以外の医薬品についても応用が可能であり,JADER の新たな活用方法として寄与することが期待される.

短報
  • 岩尾 友秀, 矢野 憲, 黒田 知宏
    2018 年 23 巻 2 号 p. 89-94
    発行日: 2018/09/20
    公開日: 2018/11/05
    ジャーナル フリー

    近年,非結核性抗酸菌症の罹患者が急激に増加している.罹患者数は 2014 年に実施された全国調査によると,1980 年の調査時と比較して約 9.7 倍となったことが報告された.この中で,約 88.8 %を肺 MAC 症が占めている.肺 MAC 症は,中高年の女性を中心として増加しており非結核性抗酸菌症の急激な増加の要因となっている.肺 MAC 症の治療は,菌陰性化から 1 年以上に渡る化学療法が一般的である.専門家の間では,クラリスロマイシン(以下,CAM),リファンピシン,エタンブトール(以下,EB)を併用することで,耐性菌の発生を防ぐ化学療法が推奨されている.一方で,非結核性抗酸菌症患者に対する CAM の単剤投与は,耐性菌誘発の可能性が高いことから,専門家の間では原則禁忌とされている.また同様に,750 mg 超/日の EB 高用量投与も副作用の影響から推奨されていない.しかしながら,臨床現場において上記のような処方事例がどの程度存在するかについては,これまで広範な調査はなされていないため,その実態は不明であった.そこで本研究では,健康保険組合に加入している被保険者レセプトのうち,2015 年から 2016 年の 2 年間で非結核性抗酸菌症患者と推定される 571 人を解析対象とし,薬剤処方実態を調査した.その結果,3 カ月以上の長期間に渡る CAM 単剤処方が約 5.1 % (29 件),EB の高用量処方が EB 処方の 338 件中約 4.4 % (15 件) の割合でみられた.一般に,非結核性抗酸菌症は長期間の抗生剤投与が必要となるため,一部の患者は不利益を被る可能性がある.今後は,臨床現場に正しい情報を広く周知することが喫緊の課題であると考える.

活動報告
日本薬剤疫学会 第23回学術総会記録
会長講演
  • 小出 大介
    2018 年 23 巻 2 号 p. 147-151
    発行日: 2018/09/20
    公開日: 2018/11/05
    ジャーナル フリー

    過去の薬害など薬の問題の究明に疫学手法が適用され,薬剤疫学という学問が誕生したが,薬剤疫学の第 1 回国際会議は 1985 年に開催され,国内でも 1995 年から開催されているように,比較的新しい学問である.今日においては米国のセンチネルや国内でも厚生労働省の懇談会による提言や改正 GPSP 省令を受けて医療データベースによる疫学的手法を適用した解析がなされるようになり,薬剤疫学が大きく注目されるようになった.その薬剤疫学の未来としては,さらに医療データベースの質と内容が充実され,また IoX や AI の進展によりシグナル検出は精度が増すと思われる.加えてゲノムデータも一層利用可能となりゲノム疫学との近接化や疾患登録などとのデータリンケージが可能となること,解析手法の高度化などが考えられる.そして単にビッグデータということで注目されるのではなく,そこから新たなエビデンスとして特に薬の安全性に関する Knowledge (知識) が生み出されていくことを期待したい.

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