1987 年 53 巻 2 号 p. 182-190
ナシ黒斑病菌No.15A菌株,リンゴ斑点落葉病菌AM-1菌株および腐生的A. alternata 0-94菌株からNTG処理によって,栄養要求性変異菌株を選抜した。0-94菌株由来のメチオニン要求性菌株(Met)およびチロシン要求性菌株(Tyr)では,復帰変異が観察された。15A菌株由来コリン要求性2菌株(Cho1とCho2),およびAM-1菌株由来のコリン要求性菌株(Cho3)とヒスチジン要求性菌株(His)は,それぞれの宿主植物に対して,親株と同様な病原性を保持していた。しかし,AM-1菌株由来のアルギニン要求性2菌株(Arg1とArg2)では,AM-毒素生成能の低下に伴う病原性の低下が観察された。なお,これらの分生胞子にアルギニンを添加すると,病原性および毒素生成能は回復した。ナシ黒斑病菌とリンゴ斑点落葉病菌の間でヘテロカリオンの形成を試みた。両菌の栄養要求性変異菌菌糸を接触させて,最小培地上で培養した。その結果,Cho1とCho3および,Cho2とArg1の組み合わせで,最小培地上で原栄養性の菌糸が生育してきた。それらの菌糸由来のプロトプラストは,すべて原栄養性であり,両菌間のヘテロカリオンであると判定された。これらヘテロカリオンの分生胞子を,二十世紀ナシおよびスターキングデリシャスリンゴ葉に接種したところ,両植物に病原性を示した。しかし,リンゴ葉に対する病原性は,用いた栄養要求性リンゴ斑点落葉病菌菌株より劣っていた。