2017 年 57 巻 8 号 p. 836-842
現在, 人工知能の分野を先頭に, 科学的研究と応用的実践の方法に大きな変革が起きている. それは, 一般的仮説を検証してその成果を現実に適用するトップダウン型の方法論から, 現実の多量なデータに基づいてアウトカムを予測する最適モデルを個別に構築していくボトムアップ型の方法論へのパラダイムシフトである. 近い将来, メカニズムが複雑で個人差が大きな慢性疾患や心身医学的な問題には, 患者本人の膨大なデータに基づくボトムアップ型のアプローチが不可欠になるのではないだろうか. すでに, スポーツや教育などの実践方法においても同様のパラダイムシフトが起きており, 自律訓練法などの心身医学療法を臨床的に活用する場合にも, そのアプローチの違いが劇的な効果の差を産み出す可能性がある. 本稿では, それらがどのようなものか解説するとともに, 自律訓練法を題材として, 研究と実践における2タイプのアプローチの違いを具体的に提示する.