摂食障害の発症, 維持にはストレスが深く関与しており, 対人関係ストレス, 虐待, 喪失体験などが摂食障害のリスク要因として知られている.
神経性やせ症 (AN) 患者は認知制御が過剰で, 情動処理の活動が抑制されていることがその病因, 病態に深く関与していると考えられるようになってきた. 対人関係ストレスに関連する不快な語彙を用いたfMRI研究では, AN患者は背外側前頭前野など認知制御を司る領域の活動が亢進し, 一方で失感情症傾向が強いほど情動に関わる扁桃体などの活動が低下していた.
われわれは認知柔軟性課題をAN患者に施行したfMRI研究により, 腹外側前頭前野の機能低下を報告している. また, 認知制御と報酬評価の機能を統合した意思決定課題において, AN患者は背外側前頭前野の活動亢進を示した. これらの知見もまた過剰な認知制御による情動処理抑制の証左となる. 摂食障害患者における神経回路の異常がストレス対処行動の異常につながっている.
摂食障害は発症や経過に心理社会的要因が密接に関わることから, 広義の心身症ととらえることができる. 患者の多くは発症前に何らかの苦痛や孤独を感じている場合が多く, 低い自尊心が内在している. さまざまな心理社会的ストレスに対して, 過食や拒食といった手段で対処しようとしているともとらえることができる. やせることで周囲から賞賛されたり, 努力すれば体重が減少するといった経験を通して一時的な自尊心の高まりを感じていることも多い.
また, 慢性的な飢餓状態により強迫性などが強まるなど, 脳機能への影響も生じる. さらに, 神経性やせ症患者において, 遺伝子の後天的な発現変化が生じることも報告されている.
摂食障害の治療は難渋することも多いが, 病態に即した心身両面からの統合的治療が重要である.
摂食障害はストレス関連疾患である. 摂食障害の発症契機にライフイベントが関わることも多く, また増悪・改善に影響を与えるのもストレスである.
神経性やせ症では肥満恐怖とストレスの関連から体重増加への治療的関与はきわめて重要である. しかし, 治療者が身体状況を優先的に改善させようとすると, 患者たちに 「体重だけみないでほしい」 と言われる. もし体重増加へのアプローチと対になる治療対象があるとしたら何だろうか? 筆者の考えでは, 治療関係を継続し, 体重増加 (片方の輪) だけでなく, さまざまな体験の中でのこころの成長と自己効力感の向上・自己受容の積み重ねをすること (もう片方の輪) で, 治療が両輪として前に進む. 神経性やせ症の治療において, ストレスの症状に与える影響や増悪パターンを扱う段階に到達するには, さまざまな突破すべき難関がある. 治療関係を継続し, 評価できる面を評価し, 自己効力感の向上につなげていくことが重要である.
摂食障害とは, 単なる食欲や食行動の異常ではなく, 体重に対する過度のこだわりや自己評価への体重・体型の過剰な影響といった心理的要因に基づく食行動の重篤な障害である. 摂食障害は, 著明なやせを維持する神経性やせ症と正常体重内にとどまる神経性過食症などに分類される. 神経性やせ症に関しては, 心理社会的因子の中でも, 周囲からどのようにみられているのかという不安が, 症状と関連しているとの報告があり, 神経性過食症の場合にも, 過食・嘔吐が, 低い陽性感情, 高い陰性感情, 怒り/敵意, ストレスを伴った日に起きやすいという報告がある. このように, 症状や経過に心理社会的因子を含むストレスが関連していることを示す報告が多く, 摂食障害がストレス関連疾患であることは疑いようもない. 本稿では, われわれの施設で治療を行った摂食障害患者の心理社会的因子に関するデータの紹介も行い, 摂食障害とストレスの関係について概観する.
森田療法で一番大切なのは体得であり, 理論で理解できる部分は限られている. 悩んだ後に体験してわかることであり, 森田自身, 学生時代に心臓神経症に悩み, それを克服した後に森田療法を確立している. 池見も思春期に種々の神経症や心身症で悩んだことがもとで, 心身医学および心療内科を創った. 池見も森田療法を受けており, 同様に森田療法を経験した筆者からみると池見は自分の悩みをおおっぴらに告白できたことが大きく発展していくきっかけになったといえる. 20年間1人では外出できなかった女性は作業を歩行に置き換えた歩行訓練療法 (森田療法変法) で体得し, どこへでも1人で行くことができるようになった. 筆者もこの女性も体得することにより神経症を乗り越えている. 糖尿病のような身体疾患は森田神経質とは真逆で心身ともにあまり敏感でない患者が多く, 違った心身両面の治療法が必要である.
交流分析の代表的な心理療法理論を, 心療内科領域における心理療法にどのように適用しうるか, 具体的な例を通して検討した. バーンの時代から交流分析の基本理論とされている自我状態分析, やり取り分析, ラケット・ゲーム分析, 脚本分析と, バーン自身が提示した8つのセラピー操作はあらゆる見立てや治療的介入の土台となる. グールディング夫妻が開発した再決断療法は患者自身のセラピーへの主体的取り組みが求められるが, 「子ども」 の自我状態が賦活され, 劇的な変化が期待できる. ジョインズらが完成させた人格適応論に精通することによって, 患者の複合的パーソナリティ特性の理解とそれに基づいたセラピーのプランを組み立てることができるようになる. ハーガデンらが提唱した関係性の視点は, 「自己」 すなわち 「子ども」 の自我状態が混乱しているため, 自身の傷つきを意識化できない患者とのセラピー関係において, 洞察と指針に導いてくれる.
現在, 人工知能の分野を先頭に, 科学的研究と応用的実践の方法に大きな変革が起きている. それは, 一般的仮説を検証してその成果を現実に適用するトップダウン型の方法論から, 現実の多量なデータに基づいてアウトカムを予測する最適モデルを個別に構築していくボトムアップ型の方法論へのパラダイムシフトである. 近い将来, メカニズムが複雑で個人差が大きな慢性疾患や心身医学的な問題には, 患者本人の膨大なデータに基づくボトムアップ型のアプローチが不可欠になるのではないだろうか. すでに, スポーツや教育などの実践方法においても同様のパラダイムシフトが起きており, 自律訓練法などの心身医学療法を臨床的に活用する場合にも, そのアプローチの違いが劇的な効果の差を産み出す可能性がある. 本稿では, それらがどのようなものか解説するとともに, 自律訓練法を題材として, 研究と実践における2タイプのアプローチの違いを具体的に提示する.
心身医学療法にはいくつかの治療法が含まれるが, 一般心理療法はそれらの治療を行ううえでの基盤となる治療法である. そして, 心身医学の臨床に携わる医師であれば, その研修過程で身につけることが必要で, 治療者として患者に向き合う際の治療的自我のあり方にも影響を与える. 一般心理療法は受容, 支持, 保証そして傾聴の姿勢で成り立つ治療法であり, 患者は自分の思考や感情を治療者にそのまま受け止められているように感じる.
森田療法は森田正馬が1920年代に確立した精神療法である. 伝統的な森田療法では, その人間理解や治療理論に基づいた態度が優先され, 患者に対する受容的態度は強調されなかった. しかし, 現代の森田療法では, 治療者はむしろ一般心理療法を治療の基盤として患者の症状を受け止め, その症状やそれに伴う感情を感じたままにして, 自分らしい生き方へと主体的に毎日の生活を送ることができるように支援する.
大学受験は重要なライフイベントだが受験ストレスにより不調を訴える受験生は多い. 筆者は4年間で当科を受診した大学受験生を10例経験した. 現役高校生が9例で, そのうち7例が女性であった. 半数が頭痛を訴え, 8例が検査上で不安を認めた.
治療前, 受験終了で症状は軽快すること, 受験ストレスで症状を生じた自身の特徴を把握することが将来的に重要であることを筆者は説明. その後, 受容・傾聴の姿勢で, つらい事柄を吐露させるベンチレーションをコーピングとした対応をとり, ほとんどが受験終了とともに軽快した. 受験ストレスによって心身へ影響がでる機序こそが心身相関であり, その理解を促す心身医学的治療は, 現状を受け止め, 症状の悪化を防止し, 目標を達成する一助を果たしている. 本報告は心身が消耗した予備校生たちを “受験生症候群” とした報告のように, 大学受験で心身が不調となり心療内科を受診した受験生の特徴と治療経過をまとめたものである.