抄録
腎挫傷後に尿管内血腫嵌屯による水腎症の急性憎悪をきたした4歳男児例を経験した。患児は4ヵ月時に右水腎症に対し右腎盂尿管形成術をうけた既往をもち,右側腹部打撲後に肉眼的血尿を呈し入院した。血液検査異常なく,腹部エコーで軽度右水腎症を認めるのみであったことから腎挫傷 (Ia) と診断しトラネキサム酸1000mg/日を含む止血剤の投与を開始した。第3病日血尿は消失し輸液を中止した後で腹痛,嘔吐の症状が出現し,エコー,排泄性腎盂造影で著明な腎盂拡大を認め水腎症の急性憎悪と診断した。尿中への血腫排泄直後から腹部症状は消失し水腎症の憎悪原因は尿路内血腫であった。この原因として,腎挫傷が水腎症側であり尿流の鬱滞を認めたこと,治療に用いたトラネキサム酸の抗線溶作用により血腫形成が助長されたことが考えられ,腎出血治療に際し尿路内血腫の形成を阻止するためには十分な利尿と慎重な止血剤の投与が必要と考えられた。