抄録
以上の陳述を要約すると次のやうになる。
(一) 學習効果は常に被驗者の學習能と作業の種類構造等の統體的關聯としてあらはれる。
(二) 若し被驗者の學習能を出來るだけ恒常に保ち得るやうに練習を統御するならば、練習効果は著しく練習作業の種類構造等によつて左右される。
(三) 上に陳述した實驗結果を多數の被驗者の平均から見ると、基數三個の加算の練習効果のあらはれ方は一種の雙曲線型又は抛物線型に屬するが、基數四個の加算の練習効果のそれは上昇の緩やかな彎曲の度の少ない抛物線型に屬する。片假名數字置換作業の練習効果は急勾配を有する對數的發達函數型に近似してゐる。しかるに圖形數字置換作業の練習効果線は急勾配の抛物線型或は雙曲線型に近似してゐる。隨つて大體からいへば、凸状上昇型が多くあらはれる傾向がある。
(四) しかし、被驗者の學習能と作業の種類又は困難さと常に關聯して練習効果はあらはれるから、上に陳べた一般的傾向も亦被驗者の學習能によつて左右される。即ち被驗者の學習能に比して作業が容易な場合は、大體凸状上昇型があらはれ、これに反して被驗者の學習能に比して作業がやや困難な場合には中段休止型或はS字状上昇型が多くあらはれ、もつと作業が困難になると凹状上昇型があらはれる傾向がある。この事實は、サーストン又はストラウドの結果と大體に於て一致する。
(五) 又これを個々の被驗者について考察して見ても、常に學習能と作業の困難さとは統體關聯をなして練習効果はあらはれ、具體的にはこれ等のいづれかの一つのモーメントが優勢を占めることによつて色々の型の練習効果があらはれる。大體學習能が小になり作業の困難さが増大するに從つて、 (1) 凸状上昇型 (これにも對數的發達函數型、雙曲線型、抛物線型等があり得る) は (2) 中段休止上昇型 (凸状型から中途に於て停滯の起るもの即ち最初が消極的加速度的進歩をなし、後になつて積極的加速度的進歩をなすもの) に移り、 (3) 更に直行上昇型に移り、 (4) 次いでS字状上昇型となり、 (5) 遂に凹状上昇型 (これにも種々の抛物線型があり得る) となる。今それを圖示すると大凡上の如き圖式を得る (第七圖)。
以上を纒めると凸状上昇型と凹状上昇型との中間に、X及びYの函數としての練習効果は色々の形を呈してあらはれるやうに思はれる。これ等の中間の型に中段休止型 (D型) や直行上昇型 (E型) やS字状上昇型 (F型) などがあらはれると考へられるのである。換言すれば、學習能と作業の困難さ複雜さとの相對的關聯によつてX及びY坐標の中に凸状から凹状に至る色々の型の練習効果があらはれ、更に凹状から停滯式が生することを推定し得るのである。 (此項完)