抄録
1) 現象的速度は日常状況に近い條件下では指數値0.86以上の可なり高い度合の恒常性を示す。
2) 1) の如き恒常性は同樣の視野中に於て認めらるゝ大きさの恒常性に比し高くとも低くはない。
3) 1) の如き條件下では對象の距離が變化しても數米以内では恒常性の度は變りがない。
4) 視野の條件を變化する時は次の順に漸次恒常の程度が低下してゆく。
イ. 日常の状態に近い視野
ロ. 對象の直前に衝立をおいて机との接觸面を覆ふ
ハ. ロ) の衝立を用ひ隻眼視
ニ. 眼の前に視野を覆ふスクリーンを用ひ隻眼視
ホ. ハ) とニ) とを合せた條件
ヘ. ホ) に更に對象の通過する附近の光線を遮斷する
ト. ホ) の條件に更に兩對象の大きさを現象的に等しくする。
尚ほト) に更に眼前に薄曇りガラスをあてた時は必ずしも恒常性は低下しなかつた。
5) 觀察に綜合的態度をとると恒常性は増す。
6) 對象の運動領域を兩對象同時に變更しても恒常性は變らない。標準 (近方) の方のみ増せは指數は増し, 比較 (遠方) の方のみを増せば指數は減ずる。
7) 對象の大きさを増又は減ずればそれにつれて現象的速度は低下又は上昇する。
8) 觀察を固定視線によるか, 追隨によるかは, 兩對象に同じ方法を用ふる限り恒常性に變りはない。一方のみを追跡する時はその方の對象の速度は遲く見える。