2004 年 53 巻 2 号 p. 123-130
日本では, 第二次大戦後に農薬の使用が増え, 農薬中毒が農村医学の主たる課題になって久しい。アジア地域諸国でも日本と同様に, または, それ以上に農薬中毒は農村医学上の課題であり, 労働医学全体の中でも重要なものであると推測される。今回, 筆者らは, 近年の国際機関の報告, 医学系論文などから, アジア地域諸国の農薬中毒 (障害) 防止研究の状況の概観を試みた。
WHOが1992~97年にかけて, 国際的な農薬中毒症例の収集方法を策定し, 1998年から東南・南アジア諸国で病院ベースの調査が行われた。それらと, 日本農村医学会の農薬中毒 (障害) 臨床例調査の調査結果 (1998~2000年) とを比較した。また, FAOが1999年にアジア地域で開始した, 地域ベース病害虫綜合防除の推進研究では, 農薬の使用状況と農薬中毒の症状を農業者に自己申告させることにより, 強毒性農薬を使用し, 中毒が発生していることを認識させ, 農業者がその使用を自主的に回避するという成果を得ている。
これらの研究・活動は, 相補的に農薬中毒防止に貢献すると考えられる。我々も, 1996年から農薬中毒臨床例調査を再開して, 1年に60~80症例を収集し, 解析してきたが, 日本およびアジア地域での農薬中毒を低減させるために, これらのプロジェクトなどとの連携を模索していきたい。