抄録
アメリカ電気診断学会が提案した手根管症候群(以下CTS)の研究に関する基準6項目に沿って正常群・患者群を対象に,CTS診断のための各種運動神経伝導検査を施行した.正常群から得た異常値を患者群に適用し,各検査の感度を求めた.その結果,短母指外転筋活動電位遠位潜時(3.68ms以上)と虫様筋活動電位遠位潜時(4.00ms以上)は,症状群全例でどちらかの値が異常値だった.両潜時の差の推移から,正中神経の絞扼が進行すると,短母指外転筋分枝は虫様筋の分枝より障害されやすい傾向にあった.これは手根管内を走行する正中神経分枝の解剖学的局在に起因すると考えられた.したがって手根管症候群の診断と病態の評価に,正中神経伝導検査において短母指外転筋と虫様筋活動電位潜時を併せて測定することが重要である.