2023 年 60 巻 6 号 p. 498-504
脳炎後の神経心理症状や精神症状は,疾患によって異なる.単純ヘルペス脳炎では側頭葉の病巣を反映して,エピソード記憶障害,意味記憶障害,感覚性失語が残存しやすい.病巣が前頭葉眼窩部や線条体に進展した場合は行動異常が残存することもある.この場合は,患者が特定の行動をイメージした際にわくべき情動が機能しないと考えると病態を捉えやすい.抗NMDA受容体脳炎ではワーキングメモリの低下,処理速度の低下,注意・遂行機能の低下が残存しやすい.これは,特定の病巣というよりは脳全体の軽度の機能低下を反映する症状と考えられる.抗NMDA受容体脳炎の後遺症で出現する精神症状は,これらの認知機能の低下と関連していることが多い.