2017 年 78 巻 8 号 p. 1790-1795
症例は75歳の男性.前医で早期胃癌に対してESDを施行され,追加切除目的に当科に紹介となった.術前の造影CTで門脈の走行異常を認めた.門脈本幹の他に,左胃静脈が右胃静脈を介してもう一本の門脈を形成し,これが尾状葉・左葉・後区域に流入していた.肝動脈は動脈硬化による狭小化を認めたため,この門脈を温存して手術を行う方針とした.
全身麻酔下に腹腔鏡下胃全摘術を施行した.右胃静脈から左胃静脈に向けて剥離を進め,全長にわたって温存した.
術後は肝胆道系酵素の上昇を認めたが,術後第10病日に退院となった.
門脈の走行異常は過去に若干の文献的報告を認めるのみで,非常に稀である.自験例のような門脈走行異常の報告例は過去には見られず,術前のMulti Detector-row CT (MDCT)による画像診断が血管の走行を把握する上で有用であった.