抄録
【目的】老人保健施設に入所中の重症肺気腫患者の1症例に対して鍼治療を行い、臨床的効果を検討したので報告する。
【症例と方法】症例は老人保健施設入所中の88歳男性で、呼吸困難を主訴とし、肺気腫の診断にて、在宅酸素療法を受けていた。Fletcher-Hugh-Jones呼吸困難重症度分類でV度と判定され、鍼治療前は%肺活量88.0%、1秒率38.2%、%1秒量30%と、重症の肺気腫と考えられた。東洋医学的には、脾腎両虚証と弁証した。鍼治療は週1~2回の頻度とし、最初は腰痛に対する鍼治療を開始し、その後、呼吸困難と肩こりに対する鍼治療を加えた。呼吸困難に対して計21回 (全鍼治療回数は33回) の治療を行った。安静時呼吸困難はNumerical Scaie (NS) 、労作時呼吸困難は6分間歩行試験後のBorg Scale、運動耐容能は6分間試験による歩行距離で評価した。腰痛、足腰のふらつき、肩こりはNSまたはPain Scaleで評価した。
【結果と考察】鍼治療により労作時呼吸困難、運動耐容能や呼吸機能検査上の改善にまでは至らなかった。しかし、腰痛、足腰のふらつき、肩こりなどの改善に伴って、安静時呼吸困難が消失した状態で安定するようになった。このことは、高齢者、特に老人保健施設に入所が必要な腰痛、肩こり、足腰のふらつきなど多様な症状を合併する全身状態の良くない患者では、肺気腫による安静時呼吸困難の改善のために、全身的な治療としての鍼治療が有効である可能性が示唆された。