抄録
麻酔導入後の体位変換により著明な低酸素症を呈した肺塞栓症の1例を経験した.症例は21歳,男性.交通事故による第8, 9胸椎脱臼骨折に対する後側方固定術が予定された.麻酔導入時の呼吸循環動態に異常は認められなかったが,仰臥位から腹臥位としたところFIO2:1.0にてSaO2が99%から90%へと急速に低下した.低酸素血症が持続するため肺塞栓症を疑い,手術を中止した.肺動脈造影では明らかな所見は得られなかったが,さらに動脈血酸素分圧の低下が持続したため,ICUにて人工呼吸管理を開始した.ウロキナーゼ・ヘパリンの大量投与により低酸素血症は著明に改善された.長期臥床患者の麻酔に際しては体位変換後に肺塞栓症の発生する可能性を念頭に置く必要がある.