抄録
穿刺吸引細胞診でmucocele-like tumor (Rosen, P.P.1986) との鑑別が必要であった乳腺低乳頭癌を経験したので, その細胞所見を報告する. 患者は46歳, 閉経前女性である. 初回の穿刺吸引標本では, 上皮性の結合を示す細胞集団が少数みられ, 背景には豊富な粘液状物質の出現を認めた. 細胞集団はシート状で平面的な配列を示しており, 個々の細胞は核間距離が均一で, 核の大小不同は認めず, 核異型性に乏しいやや大型の円形核を有していた. 2回目の穿刺吸引標本では, 大部分の細胞集団は平面的であったが, 比較的つよい核異型性を認めた. 塗抹細胞量が少なく, 大部分の細胞集団がシート状で平面的な配列を示していたことから, Rosen (1986) の提唱したmucocele-like tumorとの鑑別が問題となった. 本乳癌の穿刺吸引細胞診においては, 重積性の乏しい, シート状の細胞配列所見にのみとらわれることなく, 粘液の存在や核形不整, およびクロマチンパターンなどの核異型性の慎重な判定が不可欠であると思われた.