2022 年 43 巻 2 号 p. 121-128
MECP2重複症候群は筋緊張低下,重度精神運動発達遅滞,進行性痙性障害,難治性てんかんや顔面形成不全を呈する症候群で,まれな遺伝性疾患である.今回,12歳から6年間のMECP2重複症候群男児の歯科治療を経験したので報告する.初診時,う蝕は認められなかったが,歯科治療に非協力的なため,歯科診療への適応性の向上を目的としたトレーニング,口腔衛生指導を中心に行った.歯科治療に対する抵抗が強かったため,精神鎮静法,静脈内鎮静法を施行した.18歳時,上下顎両側埋伏智歯に対する全身麻酔下での智歯抜歯術を計画された.麻酔管理上の問題点は,難治性てんかん,知的能力障害,自閉スペクトラム症,中下顔面の形成不全に加えて,多くのアレルゲンに対するアナフィラキシーの既往があったことから,麻酔時に使用薬剤の種類を最小限とし,作用遷延が報告されている筋弛緩薬は可能なかぎり使用しないこととした.懸念されていた麻酔中のトラブルは発生しなかった.周術期管理では,救急救命科と連携して集中治療室に入室できる体制も整えて管理を行った.MECP2重複症候群を有する患者に外科的な処置が必要な場合は,全身麻酔法の適応を考慮する必要があり,安全な周術期管理を心掛けるべきと考えた.