Journal of the Japanese Society for Horticultural Science
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原著論文
11CO2 およびポジトロンイメージング装置(PETIS)によるナス果実内の光合成産物転流のリアルタイム解析
菊地 郁石井 里美藤巻 秀鈴井 伸郎松橋 信平本多 一郎宍戸 良洋河地 有木
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2008 年 77 巻 2 号 p. 199-205

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抄録
ポジトロンイメージング装置(PETIS)を用いて,光合成産物がナス植物体の葉から果実内部へと移行する様子を計測した.100 MBq の 11CO2 を第 2 果実直下の第 7 葉に与え,[11C]光合成産物が移行する様子を 10 秒ごとに 180 分間撮像した.[11C]光合成産物が葉から茎を通って下部と果実に移行する様子が観察された.さらに果実内部における[11C]光合成産物の移行過程の撮像にも成功した.果実内における[11C]光合成産物の移行は一様ではなく,偏りがあることが観察された.詳細に観察するため,測定後の果実をスライスしオートラジオグラフィーによって 11C 活性を検出した.果実内における 11C に局在性が認められたため,光合成産物の果実内おける移行は一様ではなく偏りがあると考えられた.また,得られた連続画像上の果実全体部分を関心領域として 11C 活性の経時変化をプロットし,光合成産物の到達時間を推定した.その結果,光合成産物は葉から果実に 1 時間前後で到達していると考えられた.また全 11C 施与量に対する果実への移行量は 120 分後で,およそ 8%と推定された.さらに果柄上にも関心領域を 2 点設けて 11C 活性変動をプロットし,そのプロットに対して伝達関数法によるフィッティングを行うことで光合成産物の転流速度を算出した.果柄における転流速度はおおよそ 1.17 cm·min−1 と推定された.PETIS 計測は光合成産物の移行過程を非破壊かつリアルタイムで計測できるほか,植物体内での分配を可視化できる利点がある.果実内部における光合成産物の移行過程を観察した例はこれまでなく,今後果実発達や成熟過程を理解する上で非常に有効な手段であると考えられる.
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© 2008 園芸学会
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