抄録
果樹や栄養繁殖性の植物では,健全な苗の配給をするためにウイルスやウイロイドのフリー化が行われている.カンキツでは,熱処理法と組み合わせた茎頂培養や簡易茎頂接ぎ木が行われているが,より簡単で効率の高い方法への改良が求められている.本研究では,抗ウイルス剤の使用をひとつの改良策と考え,Satsuma dwarf virus (SDV)に感染した温州ミカン(Citrus unshiu Marc. ‘Ueno-wase’)において 4 種類の抗ウイルス剤(ribavirin,foscarnet,zidovudine および enfuvirtide)の効果を評価した.実験の結果,foscarnet が熱処理法と組み合わせた簡易茎頂接ぎ木におけるフリー化において,無処理区と比較して有意に高い効果を示した.一方,他のカンキツウイルスで効果が指摘されていた ribavirin は,無処理区と比較して有意差はなかった.Foscarnet と ribavirin に,茎頂からの植物体再生に有害な作用はみられなかった.Ribavirin を SDV に対して利用するためには,処理方法や濃度の最適化が必要と考えられた.Foscarnet は,SDV に非常に高い効果を示したことから,他のウイルスに対する効果も期待された.また,これまで植物には試されてこなかったヒト用の抗ウイルス剤に,植物ウイルスにも効果のあるものが存在する可能性が示唆された.