抄録
ブドウ品種‘甲州’Vitis vinifera は,約 1000 年の歴史を持つ日本固有の品種であり,その生産量の 90%以上が山梨県で栽培されている.本研究の目的は,成熟期の甲州ブドウの各種成分を気象環境の異なる 3 地域で測定し,それら成分と気象環境の関係を明らかにすることである.すなわち,山梨県内 3 箇所の栽培地域(甲府,韮崎,勝沼)において栽培された甲州ブドウについて,ワイン原料として重要な成分である糖度(TSS),pH,窒素(YAN),酸度(TA),全フェノール(TP),果粒重量類等を測定し,そのデータと各地域の気象データの関係を 2004 年から 2007 年の 4 年間にわたって解析した.甲府は,積算日照時間が最も長く,糖の蓄積量も他の 2 地域と比較して生育後期に有意に高かった(P < 0.05).勝沼は,最高気温と最低気温の温度差が他の 2 地域に比べ大きく,果皮におけるアントシアニンの蓄積量も他の 2 地域と比較して生育後期に有意に高かった(P < 0.05).また,果汁中の TP 量も他の 2 地域と比較して高かった(P < 0.05).果汁中の YAN 含量は,地域に関わらず,いずれの気象条件にも影響を受けなかった.3 つの地域の中で標高の最も高い韮崎は,平均気温が最も低く,ブドウの成熟が甲府と比較して数週間遅かった.開花 10–14 週経過(8 月)の日照時間が他の気象条件(降雨量,平均気温,最高気温と最低気温の温度差)と比べて甲州ブドウの TSS,YAN,TA,TP,クータリック酸などの果実成分値と最も高い相関を示した.また,8 月の平均気温も開花 14–17 週経過(9 月)や開花 18–20 週経過(10 月)に比べ,TSS,TA,TP などの果実成分値と高い相関を示した.以上の事から甲州ブドウの果実成分値には 8 月の気候が大きく影響することが明らかとなった.これら知見は甲州種ブドウの栽培適地の選択において有用な情報となり,将来の甲州ワインの品質向上に寄与すると期待される.