抄録
花の大型化は,花卉の観賞価値に関与する重要な形質である.しかし,その発現には,花弁数の増加ならびに個々の花弁の拡大という,形態形成上異なる 2 つの様式が関与している.このうち,花弁数の増加は,花芽分裂組織の拡大による場合と,雄ずいや雌ずいなどの他の花器官が花弁に変換する場合とがある.花芽分裂組織の拡大には,分裂組織の形成と維持に関わる遺伝子群が,花器官の花弁への転換には,花器官ホメオティック遺伝子がそれぞれ関与している.一方,個々の花弁の拡大は,花弁の細胞が拡大することによって誘導される場合と,花弁の細胞数が増加することによって誘導される場合とがある.細胞の拡大による花弁の拡大は倍数体化によって起こり,一方,細胞数の増加による花弁の拡大は,オーキシンおよびサイトカイニンに関連する遺伝子の発現調節によって誘導される.本総説では,これらの大輪化の分子機構について,アラビドプシスなど,研究が進んでいるモデル植物における知見を中心に概観する.さらに,ひとつの主働遺伝子 Grandiflora によって誘導されるペチュニアの大輪化において,サイトカイニン生合成系および初期情報伝達系がどのような役割を果たしているかに関しての著者らの研究を紹介する.これらの知見に基づき,大輪化の育種を体系的に行うことができる可能性について考察する.