抄録
植物の凍結障害の機構を明らかにするために, 凍結障害に伴っておこる過酸化物除去系の崩壊の要因を過酸化水素(H2O2)との関係において検討した.致死温度の-20℃まで凍結したリンゴ花芽を18℃で融解すると, 2時間後に中心花の部分に褐変が現れ, 4時間後には側花まで褐変が進行した。このような凍害症状を示す花芽において, H2O2は融解後30分以内に急激な増加を示した.その後H2O2は徐々に減少したが, その含量は高い水準で推移した.H2O2の蓄積に伴って, グルコース-6-リン酸(G6P)と還元型グルタチオン(GSH)は激減し, グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PDH)とアスコルビン酸ペルオキシダーゼ(AsAPOD)は失活した.一方, 凍結過程においてH2O2はほとんど変化がみられなかった.しかし, GSHとG6Pは急激に減少し, またGSHの減少は酸化型グルタチオン(GSSG)の定量的増加を伴ったことから, 凍結中にH2O2が発生していることが示唆された.このような結果から, 凍結障害に伴っておこる過酸化物除去系の崩壊は凍結融解時に発生するH2O2の作用によること, さらに凍結障害には凍結融解時におけるH2O2の発生に始まって, 過酸化物除去系の崩壊, H2O2の蓄積と続く一連の過程が関係していることが考えられる.