ダム貯水池の富栄養化問題は,主として貯水池内で発生する植物プランクトンによるものである.植物プランクトンの発生量には貯水池の栄養塩濃度とともに滞留時間が大きく関わっている.浮遊性の植物プランクトンは湖やダム貯水池などいわゆる閉鎖性水域で発生しやすいことから,滞留時間が長いほど富栄養化問題が発生しやすいとの認識が強く残っている.しかし,実際のダム貯水池での植物プランクトンの発生状況を見ていくと必ずしも滞留時間の長期化が植物プランクトンの発生量の増加に結びつかないこともみられる.そこで,微生物の培養によく用いられる連続培養実験法を利用して,滞留時間と植物プランクトンの増殖について実験的な考察を試みた.その結果,供給する栄養塩濃度が一定でも,滞留時間によって培養器内の植物プランクトン濃度は変化し,一定以上の滞留時間の増加はむしろ培養器内の藻類濃度を減少させることを明らかにした.