2005 年 18 巻 1 号 p. 44-54
大規模開発においては,一般に計画並びに建設期間が長期化する.この間には,防災に対する危機意識の低下といった価値観の変化が起こり得,このため,計画初期段階では合理的であると思われた案も,完成時には住民の要望とはかけ離れたものとなってしまうということが見受けられる.開発の影響圏が広範である水資源開発においてはコンフリクトが生じやすく,このような計画の自己矛盾は,しばしば開発派と環境派のコンフリクトの契機となり,またコンフリクトを深刻化させる要因となる.
上記の認識のもとで,長期的な開発計画に付随して発生するコンフリクトを分析する際には,時間軸を考慮して分析を行うことが重要であると考えられる.本研究では,価値観の変化や防災意識の低下をモデル化した行動決定モデルと,安定性分析を行うための一手法であるコンフリクト解析とを組み合わせて用いることにより,時間軸に沿った循環的なアルゴリズムのもとでコンフリクト分析を行う.
そして,本モデルを日本における大規模水資源開発のあり方に一石を投じた長良川河口堰問題に適用する.まず,歴史的な経緯をモデルによって記述する.次に,今日的なシナリオ,例えば地方分権が推進された場合等を想定して,過去に関する実験としてシナリオ分析を行い,近未来に関する知見を得る.