水文・水資源学会誌
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18 巻, 1 号
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原著論文
  • —インド・バングラデシュのガンジス河利用に関するコンフリクトを対象として—
    坂本 麻衣子, 萩原 良巳
    2005 年 18 巻 1 号 p. 11-21
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/02/17
    ジャーナル フリー
    世界で発生する水資源をとりまくコンフリクトのひとつとして,バングラデシュとインドのガンジス河の水利用に関するコンフリクトがある.ガンジス河の水利用はバングラデシュの上流に位置しているインドに有利な内容になっている.こうした背景の下,2国間のみでの交渉が続けられ,コンフリクトの状況は停滞している.このように当事者間でコンフリクトの状態が硬直した場合,コンフリクトの解決へ向けて,第三者機関の介入が重要となると考えられる.
    本研究では,利害の異なるプレーヤー間の均衡状態について分析するゲーム理論を基礎として構築されたコンフリクト解析を用い,この枠組みで第三者機関の役割について分類と定義を行う.まず,第三者機関を利得関数を持たない主体‘Complement’として定義する.さらに,その役割を‘Donor’,‘Coordinator’,‘Arbiter’の3タイプに分類する.
    以上の‘Complement’のコンセプトを元に,バングラデシュとインドのコンフリクトについて分析を行う.まず,現状をコンフリクト解析を用いて記述し,次に,現状の記述から現在のコンフリクトの状況を改善するために必要な条件を分析する.そして,この条件を実現するような第三者機関の役割について考察する.さらに,第三者機関の役割として定義した中から,特に‘Coordinator’に着目し,‘Coordinator’がコンフリクトの状況を改善するために必要な条件を明確にする.
  • 宗村 広昭, 丹治 肇, 吉田 貢士, 戸田 修, 増本 隆夫
    2005 年 18 巻 1 号 p. 22-34
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/02/17
    ジャーナル フリー
    灌漑水量の推定は主に水文モデルを用いて行われてきたが,この方法は水文気象データの少ない地域では非常に困難である.本研究では国・州単位を対象として米生産量から灌漑水量を逆に推定する1つの方法を提案した.灌漑水量はポンプによる供給量で表現した.今回は水不足による減収に重点をおき対象年の必要実測データが比較的揃っているカンダール州およびシェムリアップ州をパラメータ調整に用いた.パラメータ検証にはボンティアイ・ミアンチェイ州を選定した.灌漑水量は土壌水分推定モデル(SWEモデル)と米生産量推定モデル(TRPモデル)の2つのサブモデルから構成される灌漑水量推定モデル(IWEモデル)によって推定した.その際土壌水分に関わるSWEモデルのパラメータ値を1地域のみで決定すると米生産量が一致するパラメータ値は無数に存在し灌漑水量推定値の信頼性も殆ど無い.そこで稲作に密接に関係していると考えられる土壌の排水性に着目して2地域同時に米生産量があうようにパラメータ値を決定しそれを地域共通パラメータ値とした.パラメータ検証の結果,ボンティアイ・ミアンチェイ州においても実・推定米生産量の差が10%以下という結果を得た.
  • 中村 興一, 藤間  聡
    2005 年 18 巻 1 号 p. 35-43
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/02/17
    ジャーナル フリー
    2003年8月9日から10日にかけての台風10号による豪雨は,北海道日高地方を中心に11名の死者・行方不明者を含め大きな被害を発生させた.特に,沙流川流域では観測史上最大の降雨量を記録し,河川流量は計画を大きく上回り,沿川の町に大きな被害を与えた.沙流川中流域に建設されている北海道開発局室蘭開発建設部所管の二風谷ダムでも,計画を上回るダム貯水池への流入量があったが,的確なダム操作により,ダム下流の堤防からの溢水被害を天端ぎりぎりのところで防いでいる.
    計画洪水流量を超える非常状態で,二風谷ダムがどのように操作されたのか,ダム管理所の流入量計算システムでの計算流入量が適正であったのか等について検証する.
  • 坂本 麻衣子, 萩原 良巳
    2005 年 18 巻 1 号 p. 44-54
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/02/17
    ジャーナル フリー
    大規模開発においては,一般に計画並びに建設期間が長期化する.この間には,防災に対する危機意識の低下といった価値観の変化が起こり得,このため,計画初期段階では合理的であると思われた案も,完成時には住民の要望とはかけ離れたものとなってしまうということが見受けられる.開発の影響圏が広範である水資源開発においてはコンフリクトが生じやすく,このような計画の自己矛盾は,しばしば開発派と環境派のコンフリクトの契機となり,またコンフリクトを深刻化させる要因となる.
    上記の認識のもとで,長期的な開発計画に付随して発生するコンフリクトを分析する際には,時間軸を考慮して分析を行うことが重要であると考えられる.本研究では,価値観の変化や防災意識の低下をモデル化した行動決定モデルと,安定性分析を行うための一手法であるコンフリクト解析とを組み合わせて用いることにより,時間軸に沿った循環的なアルゴリズムのもとでコンフリクト分析を行う.
    そして,本モデルを日本における大規模水資源開発のあり方に一石を投じた長良川河口堰問題に適用する.まず,歴史的な経緯をモデルによって記述する.次に,今日的なシナリオ,例えば地方分権が推進された場合等を想定して,過去に関する実験としてシナリオ分析を行い,近未来に関する知見を得る.
  • 王 維真, 渡辺 江梨子, 小林 哲夫, 長 裕幸, 賀 文君, 毛利 周子
    2005 年 18 巻 1 号 p. 55-63
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/02/17
    ジャーナル フリー
    本報は,圃場における土壌溶液電気伝導度 (ECw) と飽和溶液電気伝導度 (ECe) を,TDRを用いて同時測定した体積含水率 (θ) とバルク土壌電気伝導度 (ECa) から推定する簡易法について述べる.
    ECwθ およびECaに関係づけるモデル (Rhoades et al.,1976) と土-水比が1:1の土壌ペーストから抽出した溶液の電気伝導度 (EC1:1) が本法の基礎をなす.EC1:1と土-水比1:xの同じ土壌の土壌溶液の電気伝導度 (EC1:x) との間に次の関係を仮定する.
    EC1:x=x-nEC1:1
    ここで n は実験的に決定すべきパラメーターであるが,本研究では1と仮定される.RhoadesモデルのパメーターはEC1:1から上記関係を用いて推定されたECwに基づいて決定される.
    本法は,半乾燥地 (中国) の灌漑トウモロコシ圃場と湿潤地 (日本) の草地スポットでの灌漑実験に適用され,連続的に圃場の土壌塩度をモニターするのに有効であることが示された.
  • 斎藤 琢, 熊谷 朝臣, 大橋 瑞江, 諸岡 利幸, 鈴木 雅一
    2005 年 18 巻 1 号 p. 64-72
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/02/17
    ジャーナル フリー
    東南アジア・ボルネオ熱帯雨林における微気象,純生態系交換量 (NEE),土壌呼吸速度,循環場の諸データを用いて,夜間における生態系呼吸量を正確に見積もるための検討を行った.土壌呼吸計測結果との比較により,強安定条件では樹冠上フラックスが適正に計測されないため,夜間呼吸量が正確に見積もることができないことが分かった.弱安定条件下では,夜間NEEが適正に計測されることが期待され,樹冠上フラックスが夜間NEEの約95%を説明した.よって,年間の夜間呼吸量を見積もるためには,弱安定条件下で計測されたNEEを用いた内挿が有効であることが示唆された.本研究の観測期間において,夜間の摩擦速度に明瞭な季節性がみられ,1~3月に大きな値を示した.これは北東モンスーンの直接的流入に影響されており,乱流変動法による夜間呼吸量計測が可能となる弱安定条件の形成はアジアモンスーンに依存することが分かった.
研究ノート
  • 楊 勤, 塚本 修
    2005 年 18 巻 1 号 p. 73-77
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/02/17
    ジャーナル フリー
    中国西北部の乾燥地域で実施された「HEIFE」プロジェクトのデータを用いて,オアシスで夜間に観測された興味深い気温変化について考察した。これまでに報告されている水蒸気圧の特異な変化とも関連して,張掖オアシスでは一般的な夕方の気温降下よりも急激な変化が起こり,深夜には一時的に気温がピークをもつことがしばしば観測された。夕方の急激な気温変化は斜面循環流の切り替え時期と同期しており,オアシスの植生による防風効果と併せて効率的な放射冷却をひき起こす原因になると考えられた。そして,深夜に見られる一時的な気温の上昇も斜面を下降する風速の極大に起因する安定境界層内での強制的な鉛直混合の結果と考えられた。このことは同時に測定された渦相関法による顕熱フラックスで確かめられた.
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