抄録
地域総合化,地域頻度解析,スケーリングといったような理論は,欧米や諸外国では,洪水予測のために1950年代以降,さかんに研究されてきたが,日本の水文学の分野では,今まであまり一般的ではなかった.そして,この分野の研究で最もよく使われる,平均年最大流量と流域面積を表した曲線も,しばしば,洪水頻度解析を目的とはしていないクリーガー曲線の類と誤解されてしまう.著者らが解説しようとしているこれらの理論は,水文観測データが少ない観測点のデータを総合化したり,データの豊富な地点からデータのない地点にデータを移送したりすることにより,T年確率のクオンタイルを求めるのに非常に役立ち,PUB(未観測流域での水文予測)や,洪水頻度問題の解となるものであろう.スケーリングには,simple scaling とmultiscalingという二つの枠組みがあり,前者は直感的に理解しやすく,後者は比較的数学的で難解である.著者らは,それらの基礎理論を解説し,また,米国で開発された手法を引き合いにして,PUBへの展望を述べようと思う.