水文・水資源学会誌
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原著論文
大気全球気候モデル実験における既往最大月降水量の再現期間の性質
仲江川 敏之
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2010 年 23 巻 5 号 p. 373-383

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抄録

本研究では,大気全球気候モデル(AGCM)の長期積分結果を用いて,数値実験で再現された既往最大月降水量が,観測をどの程度再現し,またどのような統計的性質を持つかを調査した.AGCMから得られた既往最大月降水量の再現期間は,統計学的には何ら地理的分布を示さなくてよいが,ある地域では500(50)年を上(下)回る再現期間が現れるという特徴的な地理分布を示し,全球で再現期間を集計した確率分布関数は,モデル値と理論値とで良く一致したが,観測値とは定量的には一致しなかった.また,既往最大月降水量を10位の年最大月降水量で割った値(極値比)は,再現期間と同様,地域分布が見られ,極端に大きい月降水量が生じる地域は決まっていることが示された.400年以上の再現期間を持つ年最大月降水量が推定される原因を調べたところ,極値比が大きい (小さい)と,極値統計の一手法であるLモーメント法の3次モーメント(L-skewness)と4次モーメント(L-kurtosis)が共に大きい(小さい)分布となり,極値比と分布形の二つの要素に原因があることが示された.これらの結果は,AGCMで再現された既往最大値を含む極値を水文・水資源の研究に利用する際,十分な注意が必要であることを示唆している.

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© 2010 Japan Society of Hydrology and Water Resources
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