水文・水資源学会誌
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総説
近年の森林における斜面水文学とその周辺
大手 信人
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2018 年 31 巻 6 号 p. 487-499

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抄録

 最近30年程度の期間の森林流域における斜面水文学とその周辺の研究の流れを概観した.水文・水資源学会が設立される1980年代末までに,現在の斜面水文学に関する物理的な知見の基礎は確立していたと考えられるが,その後の30年間の間に幾つかの方向での各論の展開が見られた.そのうちの一つとして,溶存化学物質や同位体トレーサーを用いた水文過程の精緻な記述があげられる.これには溶存物質や同位体比の分析技術の進化と新しい解析手法の提案が重要なトリガーとなっていた.もう一つの展開として,森林生態系の物質循環研究への展開が挙げられる.生物地球化学的な方法を用いて水の移動とともに養分の移動や貯留,形態の変化を記述する研究は,酸性雨から窒素飽和現象に課題がシフトしつつ,北米,ヨーロッパ,日本など多くの地域で重要性を保ち続けている.今後の展開として重要性の高い課題としては,極端気象下で生じる水文現象のメカニスティックな理解が挙げられる.これによって流域に生じる種々の撹乱と回復の過程,その条件等の理解は,流域のレジリエンスを見据えた災害対策の基礎となるはずである.

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© 2018 Japan Society of Hydrology and Water Resources
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