2018 年 43 巻 2 号 p. 27-35
鍼通電療法には、患者が訴える症状の原因と思われる病態に対して、その目的からおよそ5 パター
ンの通電方法がある。そのうち「筋パルス」は面接と身体診察により得られた情報から、骨格筋
の異常が症状を作り出していると判断した場合に、筋内循環の促進・柔軟性の回復・鎮痛などを
目的とし、患者が不快を訴えない範囲で連続した大きな単収縮が得られるように通電を行う技術
であり、同様の判断手順で「椎間関節部パルス」も実施されるが、筋パルスと異なり椎間関節部
パルスは、通電の結果を動きとして判断できるものがなく、刺激に対する患者の感覚を頼りにし
ている部分が大きいため、純粋に椎間関節を刺激しているか否かは明確ではない。その理由の一
つに椎間関節を支配している神経は、脊髄神経後枝内側枝であるが、本神経は多裂筋も支配して
いるためである。つまり、椎間関節を目指して刺鍼をしても経過途中の多裂筋中で後枝内側枝に
刺激が入力されると椎間関節性の疼痛の再現と同様の反応を患者が示すことがあるということで
ある。しかし、筋パルス・椎間関節部パルスのいずれを用いるかは、骨格筋依存の症状であるか、
椎間関節依存の症状であるか、または混在しているかは、収集した情報から責任部位として最も
可能性の高い組織から施術対象とすることが重要である。「筋パルス」「椎間関節部パルス」とい
う手技は第43回学術大会のテーマである「腰痛」に特化したものではないが、非特異的腰痛の
一因として骨格筋はあげられ、椎間関節も腰痛の一因として考えられている。筋パルス・椎間関
節部パルスのいずれを用いることが第一選択として賢明であるかは、筋由来の症状であるか、関
節由来の症状であるかを面接によってある程度の目処をつけ、その援護情報としてベッドサイド
で行う身体診察で症状の再現情報を得ることである。たまに原因を無理矢理一つに決定しようと
する傾向を感じることがあるが、原因部位は複数にわたっていても当然である。本文では紙面上
で出来る範囲で筋パルス、椎間関節部パルスの実際について解説を試みる。