抄録
高齢者の摂食・嚥下障害の問題は、複数の疾患がもたらす病態の複雑化、多剤服用がもたらす副作用、生理的加齢変化や認知機能の低下といった本人の問題のみならず、キーパーソンをはじめとする周囲の環境によって予後が左右される可能性も高いことなどを十分に考慮する必要がある。臨床現場では、嚥下機能にとって重要な役割をもつ舌と舌骨筋の機能変化に注意を払うことが大切である。全身と舌の加齢に伴う機能低下を比較すると、舌筋の筋委縮の速度が全身の筋に比べて遅いことは、加齢に伴う全身の運動機能低下に対して舌運動機能の衰退が比較的検出されにくいことと関連していると考えられる。これに対して、喉頭を上から吊ってこれを引き上げるために重要な働きを示す舌骨上筋は加齢による影響を受けやすく、喉頭下垂や咽頭収縮と喉頭閉鎖との時間的協調を崩すこととなり、結果的に誤嚥のリスクを増加させるのかも知れない。