抄録
veno-arterial extracorporeal membrane oxygenation (V-A ECMO)は呼吸補助に加え,循環補助も期待できるため, 開心術後の肺における血液の酸素化障害をともなう低心拍出量症候群に対する有効な治療手段である. 今回,我々は5歳男児の修正大血管転位症,肺動脈閉鎖,心室中隔欠損症に対する Double switch 手術後の V-A ECHO の成功例を経験したので,過去の自験例と合わせて考察した. 現在, 我々の関心術後 ECMO の適応基準は, 1. 可逆性の重篤な循環呼吸不全で,一旦体外循環から離脱できた症例, 2. 手術適応,外科的修復に間題がない, 3. 十分な止血, 4. 非可逆性の中枢神経障害がないの4点である. ECMO中の冠血流の酸素化は,自己の左心室から拍出された血液に負うところが大きく, ECMO からの送血の酸素化された血液が寄与する割合は少ない. したがって, 特に ECMO 流量が少ない, すなわち, 自己の左心室の抽出量が多い場合は, 肺における血液の酸素化障害により酸素飽和度の低下した本人の肺循環由来の血液が冠動脈に流入し心筋虚血を生じる危険性がある. したがって, 人工呼吸器の設定は, 冠血沈と "lung rest" の両方を考慮すべきであると考えている. 合併症のうち中枢神経障害と出血は大きな問題である. 中枢神経系の評価は, 筋弛緩薬投与下では, 瞳孔の大きさ, 対光反射以外に臨床所見が取れないので, モニターが重要となるが, 現状では呼吸・循環系に比べて不十分である. 出血は全症例に認め, 予後を大きく左右する. 今後, 全身ヘパリン化を必要としない Heparin-coated circuit の実用化が望まれる.