2017 年 53 巻 2 号 p. 289-294
滑膜肉腫は若年成人の四肢関節近傍に好発する悪性軟部腫瘍で,小児の縦隔発生は極めて稀であり,標準的な治療指針は確立していない.症例は14 歳女児.上大静脈症候群を呈して受診し,画像検査で上前縦隔腫瘍を認めた.腫瘍は上大静脈内腔を完全に閉塞して右房内まで進展し,すでに肝,肺に多発転移を認めた.急速に増大する右房内の腫瘍が三尖弁に嵌頓する可能性を考慮し,準緊急で右房内腫瘍摘出術を施行した.病理組織学的検査で上皮様組織の増殖を認め,遺伝子診断でキメラ遺伝子SYT-SSX2 融合遺伝子が陽性であり,単相上皮型滑膜肉腫の診断に至った.術後化学療法により,原発巣及び遠隔転移巣の縮小が得られたため,原発巣の残存腫瘍摘出術を施行し,腫瘍を全摘出し得た.術後,脳や肺に遠隔転移を認めたが,それぞれ放射線治療や肺葉部分切除により遠隔転移巣の消失を得た.しかし,その後脳梗塞を発症し,初回手術から2 年11 か月で永眠した.